「『実は私も』という反応が一番多くて…」漫画に対する世間の反響は?
――『名前のない病気』の連載が始まってから、世間の反響はどうでしたか?
宮川 「実は私も」という反応をもらうことが一番多くて。実は身内に引きこもっている人がいても、隠しているケースが多いと思うんです。
僕自身、長男のことを初めて描く時は結構勇気がいる作業だったんですけど、この漫画を描いていると「なんで隠していたんだろう」と思えるくらい、今では気持ちが開けたといいますか。変な話なんですけど。
――長男さんのことを描くようになってから、ご家族の関係性が変化しているとか。
宮川 それが、すごく変化したんです。この漫画を描くことによって僕自身が楽になったということもあるんですけど。今まではただただ辛い過去だったことが、漫画になることで「ネタ」だったり「おいしい」ことに変わるというか。
世間的には「家族のことを描くなんて」と思う人もたくさんいると思うんですけど、僕にとってはそうすることで救われたんですよね。長男からがなり立てるような電話があるたびに嫌だったり憂鬱だったりしたのが「面白い」に変わるので。
だからもっと、辛い生活を送ってきた人たちが自分や家族の話をしたり、描いたりすることが広がればいいなと思います。もちろんプライバシーなど守らないといけないことはたくさんありますけど、表現することまで我慢する必要はないんじゃないかと。
長男のことを「兄貴」と呼べるようにもなった
――宮川さんの中で、長男さんと「関わりたくない」と思っていた気持ちが変わったのですね。
宮川 そうですね。それはこれから漫画に描く予定ですが、色々と衝撃的な展開と言いますか、関係性が劇的に変化したところがあって。今は長男から電話がかかってきても「兄貴」と呼べるようにもなっていますし。
兄貴だなんて思っていなかったから、まだ「何て呼べばいいんだろう」とこそばゆいんですけど、かかってくる電話が嫌じゃないんですよ。「ああ、よかった。生きてた。元気かな」と思えるようになった。
ネタバレになるのであまり言えないのですが、漫画の内容も、連載開始時に想定していた着地点とは大きく変わってきています。だから「何が起きたのか」、そこまでの過程をきっちり、早く描きたいです。
撮影=細田忠/文藝春秋
