「お前を殺してわしも死んでやる」と包丁を向けてきて…長男が引きこもりになった“きっかけ”

宮川 僕が高校生だったある日、家に帰ってきたら母親の悲鳴が聞こえて。慌てて駆けつけると、包丁を持った長男のそばに母親が倒れていたんです。怪我は大したことなかったようなのですが、血が出ている様子で。

 長男は母親に向かって「おまはんが悪いんやぞ、わしをいつもいつもバカにして」というようなことを喚いていて、僕に対しても「お前を殺してわしも死んでやる」と包丁を向けてきたので、制止しようと思って殴りかかり、倒れ込んだ長男の背中を蹴ったんです。

 その瞬間、すごく嫌な感触がしたと思ったら、長男の顔がみるみる土色になってしまって。両親が教えてくれなかったので、僕もこの漫画を描き始めた時に次男から教えてもらったのですが、脾臓(ひぞう)が破裂してしまったようで。

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 幸い後遺症などはなかったものの、しばらく入院することになり、それがきっかけで仕事も辞めることになったんです。

――宮川さんはそのことで罪悪感を持ってしまったと。

宮川 もともと休みがちだったとは言え、そこから30年以上、60歳を超えた今も引きこもっていますから。「自分がとどめを刺してしまったのでは」とは思いますね。

 

「自室がゴミや雑誌などで溢れかえって…」引きこもりになってからの長男の生活

――引きこもるようになってから、長男さんはどういう風に生活をしていたのでしょうか?

宮川 基本的に自室にずっといるんですけど、片付けられないのでだんだんゴミや雑誌などで溢れかえってくるんですよ。そうすると座る場所がなくなるから、ゴミと一緒にリビングに降りてくるような。

――食事などは一緒にとっていたんですか?

宮川 母親からすれば、みんないっぺんに食べてもらっていっぺんに片付ける方が楽なので、基本的にみんなで食べていたんですが、長男はタイミングがずれているというか、お茶碗を抱えたまま、テレビの前で突っ立っていたりするんですよ。

 それを母親が急かしたりすると、ちゃぶ台ごと料理をひっくり返して、また大喧嘩になるみたいな。

両親は「何か手がないか」と色々とやっていたが…

――ご家族は心配になりますよね。

宮川 両親は「何か手がないか」と色々とやっていたんですよ。僕も一緒に行ったことがありますけど、病院などを何軒も回って。でも全部ダメだったんですよ。日本の法律上、本人が望まない限り、強制的に治療に連れていくことはできないそうで。

――少し昔に、引きこもっている人を無理やり家から連れ出す業者があって、人権的に問題視されるなど話題になりましたね。

宮川 本当にどうにもならなかった時、「うちにもそういう業者が来てくれ」とよぎりましたよ。でも、それも現実的な解決策ではないんですよね。最終的に、親が生きているうちはどうやっても解決が無理だろうと思い至ってしまって。

 本人が追い込まれない限りは、甘えてこのまま何も変わらないだろうって。だから、親に「あんたたちが死んだ時に初めて、この家のガラスは割れなくなると思うよ」とよく言っていたんですけど。