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ノーヒットノーラン達成の山口俊に「あの頃の村田修一」を見た

文春野球コラム ペナントレース2018

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若返った巨人で山口俊に求められる役割とは?

「泣かないよーー! ありがとうございます!」

 凄い、あんなにポジティブに不安定なヒーローインタビューは記憶にない。快挙を達成した直後の後世に残るお立ち台で山口俊は、泣くフリから顔を上げて全盛期の浜崎あゆみばりのハイトーンで「泣かないよーー!」宣言。例えば、テストで念願の100点満点を取り、教室のど真ん中で「泣かないよーー!」なんて絶叫したら、一瞬の沈黙の後「ハイ、保健室行ってきなさい」と先生も心配するだろう。

「ちゃんとした球場でも。あ、ちゃんとした球場じゃないや。すいません。ホッ、ホームゲーム(東京ドーム)でもしっかり頑張ります」

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 5月22日、宇都宮の広島戦で2安打11奪三振の完封勝利を挙げた際は、インタビュアーから「地方に強いですね」と聞かれ、なんだかよく分からないボケをかましてみせる。仮に会社の先輩のお気に入りの居酒屋へ連れて行ってもらって「今度はちゃんとした店でも。あ、ちゃんとした店じゃないや。すいません」とか口走ったら、出世の道はサヨウナラかもしれない。

 でも背番号42に期待される役割はそこだと思う。主力に故障者が続出し、それでもAクラスにとどまり懸命に戦い続ける若さ溢れる新生巨人に足りないもの。それは“笑い”ではないだろうか。“笑い”は“余裕”とも言い換えられる。原巨人がまだ強かった時代、我々はゴッホの絵画を鑑賞するように村田修一の芸術的ゲッツーを眺め、産まれたての子鹿を愛でるようにセペダの打率.000を受け入れ、大田泰示のパワフルな空振りに永遠のアイドル性を見た。

 最近、少し反省してる。ここ数年はまるでお父さんの夏のボーナスがダウンして、預金通帳を見る目が血走る若奥さまみたいな感じで、貯金が減っていく巨人の戦いぶりや由伸采配に腹を立てていた。今の殺伐とした世の中ってなんか余裕ないな……とか言ってる自分に余裕がなかった。調子のいい時期より上手くいかない日こそ、失敗を笑い飛ばす、まだ終わっちゃいねえよ的な心の余裕は必要になってくる。

 そう言えばあの頃、村田修一の芸術的ゲッツーは何の生産性もなかったが、なによりも魅力的だった。プロ野球や人生において結果は重要だ。けど、ときに勝ちと負けの狭間に存在する楽しみもある。

 だから、これからも山口俊のズンドコヒーローインタビューや、友達と食う長崎ちゃんぽんを大事にしたい。

 See you baseball freak……

8月1日に事実上の現役引退を発表した村田修一 ©文藝春秋

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