プロポーズを待ち続ける彼女・モモカ
彼女であるモモカさんにはモモカさんの物語がある。
中学時代から一貫してマサムネ君のことが大好きな彼女は、高校時代に言ってくれた「結婚」について、具体的な提案をずっと待っている。つきあって10年も経つのにプロポーズしてくれないのはどうして?と悩む彼女は、仕事が忙しいふりをすればマサムネ君から一緒に住む提案があるのでは、と忙しいぶってみたり、家に来ようとするマサムネ君を散らかっているからなどと制してみたりするのだが、ほんとの気持ちはマサムネ君大好き、の一途な女である。美少女で明るく優しいため、会社で変な同僚にちょっかいを出されたり、マサムネ君の親友・ツバサ君に実は大学時代から思いを寄せられたりしていて、彼女としては普通に対応しているものの、それが時折あやしげな動きに見えることも。そして当然ツバサ君にはツバサ君の物語がある。
視点が変わることで見える恋愛の心理
当初はうだうだと落ち込むマサムネ君のダメな日常が描かれていた漫画は、回を追う毎に登場人物たちの新たな視点が増え、視点人物が変わるたびに主題も変わる。幸福になりたいマサムネ君、恋人になりたいセフレ女子、奥さんになりたいモモカさん、本当は自分が彼氏になりたかったツバサ君、小説を書かせたい中田さん、という風に。そしてそのすべての視点人物の状況や心境に、自分がなったことがある、あるいは自分がさせたことがある、あるいは自分が見たことがある感情が無遠慮にどんどん描き込まれていく。そしてずっとずっと知りたくて、ずっとずっと知りたくなかった世界の真理がそこにある。セフレと彼女の境界線は?どうして大してお金も名誉もないのにアイツはモテる?どうしてお互い好きであっても恋愛はままならないの?何を考えてるかよくわからない男が魅力的なのはなぜ?セフレから彼女に昇格したことがある子がいるって本当?などなど。
#2に続く
〈著者プロフィール〉
鈴木 涼美 作家
1983年生まれ。東京都出身。慶應義塾大学在学中にAVデビュー。東京大学大学院修士課程修了後、日本経済新聞社に5年半勤務した。著書に『「AV女優」の社会学』『身体を売ったらサヨウナラ』『ギフテッド』『グレイスレス』『娼婦の本棚』『トラディション』『ノー・アニマルズ』など。

