今、話題沸騰中の恋愛漫画『幸せになりたいマサムネ君』。何が読者の心をつかむのか、作家・鈴木涼美さんがその魅力を紐解く。(前後編の後編/前編を読む)
なぜ私は「彼女」になれないのか
おそらく最初に虜になるのは誰かと付き合いたかったことがある、そしてその男と付き合いはしなかったけれどもエッチはしたし辛うじてデートっぽいこともした女子たち。もちろん私もそんな女のひとりだった。セフレ扱いに傷つきつつも、白黒はっきりさせて会えなくなるのは嫌で、彼に呼ばれればしっぽをふって出かけて行って、核心には触れられず、身体は完全に明け渡しちゃって、彼とちゃんと付き合っていたという元彼女の情報を探り、どうして自分は好きとか気持ちいいとかは言われるのに彼女になってって言ってもらえないんだろうと悶えていた。別に特別スペックが高いわけじゃない、自分とそこまで大きく変わらない女が付き合ってって言ってもらっていることに実に悶々としていた。そしてずっとずっと知りたかった。彼女になれる女となれない女の違いや、何を考えているのかよくわからない男が本当は何を考えているのか。
少女漫画が描かない残酷な真実
たくさんの少女漫画を愛してきたが、実は少女漫画ってそういう切実な問題に対して、残酷な真実を見せつけてくるものは少ない。そういうヒロインたちは一緒に悩んで一緒に泣いたりしてくれて、そして向こうだけ幸福になっていったりもした。そして何を考えているかわからないヒーローは何を考えているかわからないまま魅力的で、彼女にしてもらえる女子は彼女にしてもらえて、してもらえない女子はしてくれる男子を見つけるしかないままだった。
