「恋愛の法則」が崩れる瞬間

 私はこういった不都合な真実を次々に投げつけられ、涙や鼻血を出しながら本作を読みふけっていたのだが、回を追う毎にさらに物語の深みは増していく。セフレと彼女の境界線は揺らぎ、自制心のある友人は揺らぎ、男女の立場は時に逆転する。だって登場人物たちは人間なのだから。昨日と今日では気分が違い、決めたことを守れるとは限らないし、知らぬうちに成長もするし老化もする。残酷な眺めを見せられて全セフレを泣かしたと思った次のページで、それでも法則が壊れる複雑さが恋愛にはあるのだと教えてくれる。

 

ままならない恋愛の先にある希望

 世界は荒唐無稽で世間は厳しく、恋愛はままならない上にわけもなく傷つけられるけれども、それでも明日は生きるに値すると思わせてくれる、これはきっとそういう物語なのだ。なんだか壮大過ぎる言い方になってしまってちょっと言い過ぎのような気もするけれど、少なくとも私はマサムネ君から、セフレちゃんから、モモカさんから、まだ当分目が離せない。

〈著者プロフィール〉

鈴木 涼美 作家

1983年生まれ。東京都出身。慶應義塾大学在学中にAVデビュー。東京大学大学院修士課程修了後、日本経済新聞社に5年半勤務した。著書に『「AV女優」の社会学』『身体を売ったらサヨウナラ』『ギフテッド』『グレイスレス』『娼婦の本棚』『トラディション』『ノー・アニマルズ』など。

 

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最初から記事を読む 「プロポーズされない彼女」vs「名前で呼ばれないセフレ」『幸せになりたいマサムネ君』が描く恋愛の残酷な真実