セフレと彼女の間に違いはない

『マサムネ君』のすごいのは、それらの内実、剥がしてみればなんということのない真実の実を、特別なことをしている素振りをみせずにペロペロと剥がしてしまうところだ。たとえば相席バーで出会った名もなきセフレちゃんとモモカさんは実は同じ職場で同じポジションで働いている。つまりセフレと本物の彼女の間にスペックの違いなど何もないこと。しかしモモカさんはセフレちゃんの恋バナを聞いて、そこで語られているのが自分の恋人であることなどつゆ知らず「最悪じゃない?」と感想をもらす。これは実に示唆的である。モモカさんとセフレちゃんの違いは、自分に対してまっすぐとした告白をするのではない、冷たいようなよくわからないような態度の男に、惹かれてしまうかどうかなのだ。モモカさんはセフレにはならない。セフレにしてくるような何を考えているのかよくわからない男の態度に見向きもしないだろうから。

 

「何を考えているかわからない男」の正体

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 何を考えているのかよくわからない男の正体も実に身も蓋もなく描かれている。セフレちゃんから見たマサムネ君は会おうと言えば会えるし、全く好きじゃないってことはないよね?と思えるくらいは優しいセックスをするし、ファミレスで奢ってくれることもあるけれど、向こうから誘い出してくれることは長くなかったし、一緒に寝ているときに携帯を見て外に消えちゃうし、突然冷たいモードに切り替わったりする、つかみどころのない男だ。でもマサムネ君の視点に立てば、一番大切なものに翻弄されながら、身近にせまりくる魅力的な誘惑にもちょっと乗っているだけで何もミステリアスな要素がない。要は私たちが、「深い闇があるのかも」「本当は私のこと好きだけど大切過ぎて何もしてこないのかも」「過去にトラウマがあるのかも」と思っていた彼ら「何を考えているかわからないつかみどころのない魅力的な男」は単に、私たちより優先順位の高い大切なものを抱えていて、そちらの都合優先で動いているから動きが理にかなっていないように見えるだけ。セックスが優しいのは本命の彼女にする優しいセックスと同じ手順を踏んでいるからだ。