検察官からも「小学生のころから他人に暴力をふるうなどの粗暴さが目立ち、施設等に入所していた」という指摘があった。
弁護側は「家庭内で暴力を受けるなど不適切な養育環境にあり、入所した施設でも適切な治療や支援を受けてこなかった」と、刑事罰ではなく少年院で保護教育を受けるのが相当であると主張した。
「人を殺してみたかった云々」は、家庭裁判所の審判で「一人ぐらい死んでもかまわない」と加害少年が言い、その理由について「これまで他人の死にあまり興味がなかった」と答えたことについて山本が触れたことだ。人の死に興味がないのに「一人ぐらい死んでもかまわない」とは矛盾した理屈だが、加害少年の言葉から、私は何を受け取ればいいのか混乱した。
被害者を愚弄する言葉
加害少年の返答が記された心情等伝達結果通知書が送られてきたのは2024年7月のことである。かかった日数は約3週間で、加害者の握った血まみれの刃物のような言葉が、そのまま記されたものが郵送されてきた。
問い 公判時と現在の気持ちに変化はあるか。
返答 ノーコメント。
問い 娘に包丁を向けたとき、実際に娘を刺したとき何を感じたか。
返答 人はあっけなく死ぬんですね。
問い 娘はどんな表情をしていて、どのような気持ちだったと思うか。
返答 猿の顔、馬鹿ですね。
問い 人の命をどのように思っているのか、過去に「人を殺してみたい」と話していたようであるが、実際に殺してみてどのように思うか。
返答 あっけないですね。
問い 私のこの話を、真正面から逃げずに向き合って。謝罪の意味を必ず答えてほしい。
返答 ごめんですね。
他にも、損害賠償金の措置について答えることも、支払う意思についても答えることはなかった。こうして書き写すだけでも、被害者を愚弄するような言葉に胸が悪くなる。私が書面に目を通し終えると、山本が口を開いた。かすかに声が震えていた。
「裁判でも傷つけられているのに……」
「返ってきた答えはこのとおり、ひどいものでした。事件から4年経っていたから、少しは事件と向き合っているのではないかと期待する気持ちがあったんですが……。謝罪するどころか、娘を侮辱し、まったく反省もしていないことがわかりました。裁判でも傷つけられているのに、さらにこの手紙で悔しい思いをさせられて……」
実は、心情等伝達結果通知書が送られてくる前、山本の弁護士のところに刑務所から連絡があった。そのまま伝えるには内容がひどく、(遺族の気持ちを考えると)心配だという内容だった。しかし母親は当初から、どんな結果でもそのまま伝えてほしいと希望していた。