懲役16年
一審判決は、加害者は「統合失調症ないし妄想性障害」に罹患しており、被害妄想が悪化したのは、周囲に相談できる者がなく、家族も適切な対処ができていなかったことも影響したと述べられている。
しかし、加害動機がつくられていく過程には被害妄想の影響があったとしても、加害の様態は加害者の目的にかなっている。犯行当時は心神耗弱の状態であったことを踏まえても、被害妄想の影響は限定的だったと考えられ、極めて悪質な犯行である
一審判決はそう断じている。ちなみに加害者に前科はない。
被害者遺族である森田の証言等によると、加害者は犯行後、長髪にしていた髪の毛を自分で丸刈りにし、衣服や凶器に付着した血液を洗ったりもしている。また、被害者の小学生のことはいっさい知らないと、あきらかな嘘も法廷で証言していたという。
犯人はどうやって逮捕されたのですかと私が問うと、「(警察が加害者の家を捜索して)加害者の家の玄関に下駄箱があって、その前に、うちの子の小さな血痕があった。鑑定してわかったんです。凶器も鑑定して一致した。事件後、加害者は家に潜伏していたそうです。父親はすぐに家に帰ってこられないので、警察が指示して、母親が息子をクルマに乗せて近くの道の駅に連れていった。そこで任意同行。警察署で逮捕されたんです。検察官の取り調べのときに、“こんな刺して気が済まないのか”ということを息子が加害者に言ったと、加害者が話したそうです。計画的な犯行なんです」と森田は歯を食いしばるように語った。
検察官の求刑は懲役25年。しかし、一審判決は心神耗弱を加味し、懲役16年を言い渡した。検察は──加害者の軽度の心神耗弱を過度に評価するべきではない、完全責任能力に近い、統合失調症であった可能性は乏しい、犯行には計画的一貫性がある等──を理由として控訴した。
しかし、二審は職権で調査を行い、被告人の刑事責任能力の鑑定を行う展開をみせる。
その結果、原判決を破棄するとしながらも、量刑は変わらなかった。森田も「わけがわからない」と何度も口にする、この一見わかりにくい結論をかみ砕いて説明する。
