小学校ではイジメに…「息子と2人で泣きました」

 人はいいんですけど、ボーッとしてるんで、小学校ではイジメに遭いました。それを察知した私は、番組終わりにそのまま車で小学校に乗りつけました。案の定、息子が囲まれている現場に出くわして、いじめっ子たちを怒鳴りつけて、息子を連れ帰った後は、2人で泣きました。

 それでも中学から柔道を始めて、黒帯までとってからは、イジメられることはなくなりました。

 それはよかったのですが、今度は成績が悪くて、入れる高校がない。

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 さぁ、困った。先生、どうしましょう、と臨んだ三者面談。途中で先生から「お母さん、ちょっと黙っといてください」と言われました。息子が喋らないもんで、私がずーっと喋ってたんですね。職業病です。

息子が珍しく自分から「仕事を辞めたい」と

 家庭教師をつけたりして、何とか高校には入れましたが、そんな調子なんで、当然、就職先もありませんでした。仕方ないので私のコネである会社に入れました。

 そこにいたんですよ、鬼上司が。

 あまり多くを語らない息子が珍しく自分から「仕事を辞めたい」と言ってきました。こんなとき母としては何か言うべきなのでしょうが、私は何も言えませんでしたね。

 ただ夫が「いくら腹が立っても、上司に手を出したらあかんぞ。どうしても我慢できなくなったら、そのへんにあるボールペンを目の前で折りなさい」と言ったんです。

 その翌日、息子は、本当にその上司の前でボールペンをボキッと折って、会社を辞めてきました。それを聞いた私の目は吊り上がり、血圧が上がり、血糖値も上がり、お尻だけがたれました。「あれは言葉のアヤや」と言っても、後の祭りです。

ハッと思い出した寅さんの言葉

 どうしてこの子は……と嘆きつつ、ハッと思い出したのは『男はつらいよ』の一場面。寅さんが妹のさくらの夫のヒロシさんにこんな風に言うのです。

「お前とオレは別な人間なんだぞ。早え話がだ、俺が芋食って、お前の尻からプッと屁が出るか?」

 そう、自分の子宮を痛めてひねり出した我が子といっても、所詮は別の人間なんです。

 そんなややこしい生き物を私は2匹、もとい2人も産んでしまいました。子どもには振り回されてばっかり、と思っていても、母の日に安いプレゼントを渡されると、嬉しくて涙してしまうんです。

 因果なものやなぁ、と思います。

 ですから、あなたのお気持ちはよくわかります。心配で心配で仕方ないけど、替わってやるわけにもいかず─親でなければわからないその苦みを噛みしめるのもまた人生。

 ここは寅さんに倣って、息子さんと芋を食って、2人でプーとやってみてはどうでしょう。

 きっと“屁あわせ”な気分になること、請け合いです。

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上沼 恵美子

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