年間3万人を診察する総合診療医の伊藤大介さんは、「健康診断こそが深刻な病気の『芽』を摘むことができる唯一の方法です」と強調する。
そんな伊藤さんが初の単著『総合診療医が徹底解読 健康診断でここまでわかる』を10月20日に刊行した。
血圧、血糖値、コレステロール、腎機能、がん検診……など検査数値の見方が180度変わる実用的なポイントが満載の内容になっている。今回は本の中から、肝臓の状態をより詳しく知るための活用術を紹介した箇所を一部抜粋する。
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唯一と言っていいほどの驚異的な再生力
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるだけあって、多少のダメージを受けても、「ここが痛い」とか「調子が悪い」などと弱音を吐きません。つまり自覚症状が出にくい臓器です。一方で、体内の「化学工場」に喩えられるほど多機能で、食べ物の栄養をエネルギーとして蓄えたり、アルコールや薬など有害な物質を分解して無毒化したり、さらには脂肪の消化を助ける胆汁という消化液を分泌したりと、休むことなく、獅子奮迅の活躍をしています。
しかし、意外に知られていないのは、肝臓があらゆる臓器の中でも唯一と言っていいほどの驚異的な再生力を持っていることです。
これは決して大げさな表現ではありません。病気や事故で手術を受け、たとえ肝臓の7割近くを切除することになったとしても、肝臓の機能が健康な状態であれば、残り3割の部分の細胞が、ものすごい勢いで分裂・増殖を始め、数カ月のうちに、ほぼ元通りの大きさになり、機能も回復してしまうのです。まるでSF映画のようですが、他の臓器では考えられない、肝臓ならではの力です。
この再生力があるからこそ、健康診断における肝機能の数値、例えば「AST」や「ALT」が多少、高かったとしても、落ち込む必要はありません。飲み過ぎ、食べ過ぎ、運動不足などの生活習慣を見直し、必要であれば薬を服用することで、肝臓は持ち前の柔軟性と回復力を発揮して、再び元気な状態へと戻ってくれるのです。
肝硬変はスポンジがカチカチの軽石になったような状態
多くの方が気にされる「脂肪肝」は、まさにその典型例で、ダメージが浅いうちにきちんと対処すれば、肝臓の状態が驚くほど改善することも大いにあり得ます。
ところが、肝臓の再生力も決して万能ではなく、やはり限界があります。長い年月にわたって、じわじわとダメージを受け続け、慢性的な炎症が繰り返されると、肝臓全体が硬くゴツゴツとした状態、いわゆる「肝硬変」になってしまうのです。
肝硬変は、喩えるなら、弾力のあったスポンジが、長い間、雨風にさらされてカチカチの軽石のようになった状態です。こうなると、肝臓の再生力も著しく衰え、自力で回復することはほぼ不可能です。現在の医学では肝臓移植をするしかありません。
そのため、肝臓において最も注意すべきは肝硬変であり、そこから肝がんを発症してしまうことです。健康診断における肝機能の検査項目も、最大の目的は肝硬変を防ぐことにあり、その点を考えながらチェックすべきなのです。
では、具体的にはどう見ればいいのか。詳しく解説していきます。
肝機能の代表的な指標としては「AST」「ALT」「γ-GTP」の3つがよく知られています。
このうちAST、ALTのどちらか片方だけを測定することは、あり得ません。なぜなら、ほぼすべての医師がASTとALTをセットで見ているからです。

