日本への逆輸入を目指す

 社会実装は着実に進んでいます。元々僕の研究室にいた樋口雅一さんが2015年に前身企業を設立し、私が科学顧問を務める企業「アトミス」では、インドネシアで2024年から高圧ガス容器の実証実験を進めています。

研究室に置かれていた「多孔性材料」の模型 Ⓒ文藝春秋

 インドネシアはメタンを主成分とする天然ガス、いわゆる都市ガスを産出する世界有数の国です。ところが大小1万7000以上もの島々から構成されている上、地盤沈下の問題があり、パイプの設置が困難で、ジャワ島でも非常に限られた地域でしかパイプライン網は整備されていません。現状、国外から輸入した液化石油ガス(プロパンガス)を鋼鉄製のボンベに詰め、船舶やトラック、バイクで各家庭、店舗、業務用施設などに配送されています。

 多孔性材料を応用すれば、重くてかさばるボンベと同じ量のガスを、より小さく、より軽い容器で運べます。多孔性材料の孔に入った気体分子に引力が働いて吸着するからです。

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 アトミスは、従来の円筒形のガスボンベと比べ、4分の1の重さで、約80%小型化した容器を開発しています。10キロ前後なので、女性でも運べますよ。しかもGPSやガスメータなどのIoTデバイスを搭載し、容器の位置情報、ガスの利用状況などリアルタイムに遠隔で管理する仕組みも備えているので、必要な量を必要なタイミングで供給することができます。また、インドネシアに豊富にあるバイオマス由来のメタンも運べます。インドネシアの他、東南アジアでこの技術を確立させて、日本に逆輸入する予定です。

※この記事の全文(約6800字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2025年12月号に掲載されています(北川進「3つの言葉が発見につながった」)。全文では下記の内容をお読みいただけます。
・すごい同級生が両隣に
・荘子の「無用の用」
・長老に肩をぶつけられた

出典元

文藝春秋

【文藝春秋 目次】〈総力特集〉高市早苗総理大臣の人間力/彬子女王と母信子妃 決裂の瞬間/素晴らしき哉、第二の人生!

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