2025年のノーベル化学賞受賞が決まった京都大学特別教授の北川進氏。多孔性材料を長年にわたり研究する中で、「金属有機構造体(MOF)」開発の功績が受賞の理由だ。MOFをはじめとする多孔性材料を使えば、「空気は見えない金」になるという(聞き手・緑慎也)。
◆◆◆
「霞を食って生きる」
いまでは多孔性材料に関連するスタートアップは、国内外で40社以上になっていると聞いています。様々なガスの吸着、貯蔵、分離などに使える多孔性材料の応用先は多く、大きな可能性を秘めているのです。
収入もなく、世俗的な世界を超越した生き方をすることを「霞を食って生きる」と言います。僕の夢は、文字通り、霧や靄などの霞を原料に社会を回すこと。多孔性材料を応用し、空気を原料にエネルギーを作る社会を作りたいと考えています。空気中のCO2や水蒸気を原料として、たとえば液体のメタノールなどを合成し、エネルギー源として活用するのです。化石燃料のコストがこれだけ上がると、資源国であるアメリカや中国にはもはや太刀打ちできません。もし空気資源を使うことができれば話は変わります。空気は小国にも大国にも平等に存在するからです。それで「空気は目に見えない金」と言ったのです。
地球の大気は、二酸化炭素、水蒸気、酸素などの気体分子で満たされており、太陽光との相互作用を通じて膨大なエネルギーが地球全体に循環しています。生命、特に植物は、何十億年もの歴史の中で、光合成によって二酸化炭素と水を有機分子へと変換し、その化学結合に太陽エネルギーを蓄え、酵素反応によってそのエネルギーを取り出しながら生きてきました。
再生可能エネルギーを利用し、多孔性材料で空気中の二酸化炭素を取り込めば、トレーラー1台で燃料を作ることだってできるはずです。大規模発電所が災害で遮断されても地域ごとにエネルギーを自給自足できます。社会が大きく変わるでしょう。何十年かかるかわかりませんが、これを実現させたい。AIの力も借りて開発を加速できればと考えています。

