「クマを殺すなという人も多いと聞くけど…」
湊屋さんは、マスコミばかりではなく、同じようにクマに襲われた人から「頭の傷の部分の感覚が戻らない」などの相談も受けてきた。
店は閉じているものの、道の駅に毎日バター餅を納品し、注文が来た洋菓子を作り、新商品の開発依頼を受ける。本業だけでも忙しいのに、数々のボランティア活動も変わらず続けてきた。その合間に、来るもの拒まずでクマに関する依頼や相談に、できる限り対応してきたのだ。
「実際に襲われたからわかることがある。こんな風になるんだよっていうことを広めなくてはいけないと思うね。
町中に出たクマは駆除したほうがいい。クマを殺すなという人も多いと聞きますが、オレみたいに襲われたらわかると思いますよ。年中片目は涙目だし、耳はカチカチに硬くなって、傷はズキズキ痛むし。
防御した上腕を噛まれたときは、人生で一番痛かったね。噛まれた跡は腕や腹に残っているけれど、かさぶたが取れては膿んでを何度もくり返して、それがおさまるまで長くかかった。
だから事故後は、こんな目にあって見舞金も出ないのかと思って、自治体に働きかけましたよ。市や県ではその後、クマ被害者への見舞金が出るようになったけれど、オレには出ていないよ」
作業場にサバイバルナイフを常備
目の前で対峙したクマは一生忘れないという湊屋さん。その加害グマはいまだ、駆除されていないという。
「ヤツは頭部が茶色の特徴があるので見ればわかります」。ベテランハンターにそれを話したところ「それは年寄りのオスグマではないか」とのことだった。
「オレが車庫のシャッターを閉めてしまったから、ヤツは車庫の2階に上がったりもしていたみたい。事故後の調査で階段に毛が見つかったからね。オレの大切なハーレーダビッドソンの横に、べちゃーっとウンコをしていて、その跡が床に残っているんだよね。
ウンコの中に未消化のソバの実があったよ。事件数日前に、米代川の向こう岸にソバ畑があってね。そこで目撃されていたらしいから、ソバの実を食って、川を渡って町中に来たんだと思うよ。
それでさ、ハーレーダビッドソンの前輪フェンダーの上にクマの毛がついていたから、きっとオレの愛車に跨ったと思うね(笑)」
襲われて以来、作業場に刃渡り30cmほどのサバイバルナイフを常備しているという。
(文:兼子梨花/風来堂)
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