未曾有のクマ被害が続く日本社会。現場では一体何が起きているのか。2023年10月、秋田県で大型のクマに襲われた当時66歳の男性に話を聞いた。(全2回の1回目/続きを読む

66歳の男性が自宅敷地内でクマに襲われた(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

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「まさか、生きたクマにオレが襲われるとはね」

 北秋田市内の町中。自宅車庫のシャッターを開けたら、中から飛び出してきたクマにいきなり襲われた。そんな被害を証言するのは、老舗菓子店「鷹松堂」3代目店主の湊屋啓二さん(当時66歳)。

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「鷹松堂」は、路線バスが往来する県道に面する、大きな構えの菓子屋だ。隣り合う店舗兼自宅の建物と作業場の間には、敷地奥の車庫へと続く20~30mの路地がのびる。

左が店舗、右の白い建物が作業場。現在は製造のみで店舗は閉めている(写真:風来堂)

 作業場の裏には立派な蔵が残っており、そのまた裏手にクマとの遭遇現場となった車庫が建つ。車庫は物置を兼ねた2階建てで、自家用車のほか、湊屋さんご自慢のシルバーのハーレーダビッドソンが停まっていた。

 そこには様々なお宝が無造作に収められていたが、ひときわ目立つのは見事に解体され、真っ赤な絨毯に張り付けられたクマの毛皮。ハンターでもあった、先代(2代目)の仕留めたクマだという。

ガレージにはクマの毛皮の敷物も(写真:風来堂)

「うちの奥さんが気持ち悪いって言って、自宅にあった毛皮をここに押し込んだんだわ。まさか、生きたクマにオレが襲われるとはね。この車庫の前でさ」(湊屋さん)

路地から「ギャーッ!」という叫び声が…

 地元猟友会の会長も務めていた父親から、クマに襲われた話は一度も聞いたことはなかった。子供のころからクマの毛皮の上に寝転がり、クマ肉を食べていた。小学生になるとキジなどの野生動物をナイフでさばき始め、その腕前は子どもながらに玄人はだしだった。

 そんな湊屋さんが、いつものように朝6時に起床し、作業場で北秋田市名物「バター餅」をカットしていた2023年(令和5)10月19日の朝7時ごろ。

 車庫へと続く路地から「ギャーッ!」という若い女性の叫び声とともに、ガラス窓越しに頭の影が動くのが見えた。