小西 なるほど。先ほどお話しされていた「踊りをやっている人のお芝居」でいうと、僕は今回、京マチ子さんに惚れられる番頭さん役で出ていた鶴田浩二さん。鶴田さんの映画を観ていると、必ずセリフ回しを聞いちゃうんです。本当に歌っているようにしゃべっていて、他の人とまるで違うんです。鶴田さんって、俳優としても二枚目で人気がありましたが、歌手としてもすごい人気だったんです。
橋本 そうなんですか、知らなかった。
小西 僕らの世代だと「古いやつだとお思いでしょうが……」というセリフからはじまる「傷だらけの人生」という曲がヒットしていて、耳に手を当てて歌うのをみんな真似していた(笑)。そのせいかセリフ回しに音楽的なところを感じるんです。
日本には希有なバイタリティ
小西 橋本さんは、京マチ子さんの映画で他に印象に残っている作品はありますか。
橋本 最初に観たのは『羅生門』だったと思いますが、増村保造監督の特集上映で観た『女の一生』(62年)はすごく好きでした。
小西 この映画、90分ぐらいで女性の一生を全部やっちゃう映画ですよね。しかも京さんが若いころから晩年までを特殊メイクで演じている。でも増村特集にまで橋本さんが行かれていたとは(笑)。
橋本 増村監督の映画にある猥雑さが好きだったんです。観た当時はあまり理性的でない人の姿が観られるところに惹かれました。映画でしか観られない人間の愚かな醜い部分を、面と向かって観ている感覚でしょうか。
小西 日常ではなかなか人のそういう部分を観る機会はないですからね。僕は若いころ、初めて京マチ子さんを観た時、キム・ノヴァクに似ているな、と思ったことがある。当時の女性としては大柄で、ボリュームのある方でしたね。だから清水宏監督の『踊子』(57年)みたいな役、マレーネ・ディートリヒの『嘆きの天使』(30年)みたいな映画が似合う方だった。京さんの映画ではぜひ『あにいもうと』(53年)を観てほしいんですよ。
橋本 まだ観ていないです。どういうお話なんですか?
小西 これが僕にとっての京マチ子さんの典型的なイメージです。突然地べたに転がって「さあ殺せ!」って言うような、そういうタイプの演技。やぶれかぶれ感があるんです。『赤線地帯』(56年)の京さんもそうですね。
橋本 私、『あまちゃん』(13年)に出演している時、渡辺えりさんとお話ししていて、えりさんに「えっ、京マチ子さんの映画も観ているの!?」ってすごく驚かれたことがあって、一体京さんってどういうポジションの女優さんだったのか知りたかったんです。あまり日本にいないタイプの女優さんだったんですね。
小西 京さんが持つバイタリティみたいなところに当時の日本人は憧れ、力をもらっていた気がします。『羅生門』がヴェネツィアでグランプリを取った時、すごく当時の日本人の励みになったとよく言われるけれど、新しい女性、強い女性のイメージを重ね合わせるところが大きかったのかもしれない。
橋本 確かにそうですね。第1回から興味深いお話がいっぱいで、やっぱり映画について話すのは楽しいです。
小西 僕もです。次は何をテーマに話しましょうか……。
馬飼野元宏=構成・文
深野未季=写真
橋本愛=メイク:鷲巣裕香(beauty direction)
スタイリスト:清水奈緒美
撮影協力:キノフィルムズ
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小西康陽推薦の1本
発売・販売元:KADOKAWA
いとはん物語(1957年)
監督:伊藤大輔/出演:京マチ子、矢島ひろ子、市川和子、東山千栄子、鶴田浩二
大阪の老舗「扇弥」の長女で不器量だが心優しいお嘉津(京)は番頭の友七(鶴田)に好意を抱くが、友七はお八重(小野道子)という小間使の女性を思っており……。時代劇の父・伊藤大輔監督の文芸作品。
こにし・やすはる 1959年、北海道生まれ。1985年、ピチカート・ファイヴとしてメジャー・デビュー以降、豊富な知識と独特の美学による作品が世界的な評価を受ける。現在も作詞・作曲家、アレンジャー、プロデューサー、DJと多彩な音楽活動、『群像』(講談社)で「これからの人生。」を連載するなどの執筆活動を続ける一方、名画座めぐりを欠かさない。
はしもと・あい 1996年、熊本県生まれ。映画『告白』(10年)で注目を浴び、『桐島、部活やめるってよ』(12年)で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。連続テレビ小説『あまちゃん』(13年)でも話題となる。現在、大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)に出演中。また、出演映画『アフター・ザ・クエイク』が10月3日より公開。



