橋本 たしかに、ルッキズムなどの観点から見るとそれも理解できます。でも、とにかく京マチ子さんがとても魅力的でした。80分ぐらいの短い映画に登場人物のさまざまな思いが凝縮されていて、すごい完成度だと思いました。
小西 映画って80分でいいんだな、と思いますよね。本当に無駄がないのにとても豊かでストーリーも面白い。
橋本 本当に。密度が濃く、長いとも短いとも感じさせず、何より作品の強度が違うなとしみじみ感じました。
小西 あとは美術やセットのすごさ。とくに大映の映像京都は美術が圧倒的にすごい。「そこまでしなくても」と思わせるほどの豊かさを感じますね。
橋本 京さんをはじめ、皆さんのお着物もとても素敵でした。やはり衣装って大事ですよね。キャラクターがより輝いて見えるし、観ている側としても、目で楽しみたいという気持ちも強いですから。
小西 お母さん役の東山千栄子さんの着物も、すごく綺麗でしたね。衣装でキャラクターの精神状態を表していたり、色のコントラストでキャラクターの対比を描いているので、その人が登場するだけで、セリフがなくても伝わるものがそこにある。
橋本 私もそれをすごく感じました。また、お芝居の勉強としてもすごく参考になることが多かったです。お着物の袂はこんなふうに使えるんだとか、自分が着ている服や小道具、環境を存分に扱っていらして、本当にすごいなと思いました。
小西 京マチ子さんの喜ぶ時の所作とか一連の動作は、一種の踊りに近いなと思います。ダンサー出身の方ですから、全身で表現することに長けているんでしょうね。
橋本 引きの画になった時、すごく引き立つ振る舞いをされているし、それもわざとらしさがなく美しい。だからこそ、最後の悲しみに沈むシーンでは逆に動きがほとんどなくて、内的な動性を感じました。それまでが明るく朗らかな人だったので、余計に悲しみが伝わってきます。
踊りが身についている人の着こなしと所作
小西 やはり「自分がやるならこうする」と考えたりすることはあるんですか?
橋本 すべての映画ではないですが、「私だったらこうしたい」と思う時はあります。『いとはん物語』に関しては「京さんの動きをやってみたい」と強く思いました。踊りをやっている人とそうでない人のお芝居って全然違うんですよ。
小西 そういうものですか。
橋本 ええ。私は踊りをやっている方のお芝居が好きで、自分でも日本舞踊とかダンスとか、色々手を出しているんです。とくに今、時代劇の撮影をしているところなので、着物の着こなしや所作は本当に勉強になりました。
小西 ふだん着物を着ないのでわからないですが、粋な着こなしとかあるんですか。
橋本 粋というか、もう着物が第二の皮膚になっている感覚がいい着方なんだと思います。着ているとか着られているとかではなく、身体の一部として纏っている感じ、着物にまで神経が通っている感じでしょうか。
