名画座の椅子に深く座って、まだ観ぬ旧い映画を知る快楽──。
ミュージシャンの小西康陽、俳優の橋本愛、世代も違うふたりの対談からひもとく、旧い日本映画の愉しみ方。
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名画座で“映画漬け”になった思い出
小西 10年前くらいかな、名画座で同じく映画ばかり観ている友達から「映画館で橋本愛さんを目撃した!」って聞いたんですよ(笑)。
橋本 本当ですか?
小西 ええ。でも僕もあんなに名画座に通っていたのに、一度もお見かけすることもなく。ですから、こういうかたちでお会いできて光栄です。
橋本 きっと私が一番頻繁に名画座に通って、昔の日本映画を観ていた時期ですね。
小西 古い日本映画に興味を持ったのは、どんなきっかけだったんですか。
橋本 映画の歴史をちゃんと知ったうえで、俳優のお仕事をしたいと思ったんです。中学生のころにこのお仕事に飛び込んだので、大人たちとの会話の中で「あの映画は〇〇のオマージュだ」という会話になっても、それがわからなくて悔しかったり(笑)、いろいろな理由がありました。
小西 スケジュールを組んだりしてハシゴすることも?
橋本 ありました! 最大で4カ所をハシゴして1日4本観たことがありますが、途中で寝ていました(笑)。自分の限界を知る旅でしたね。
小西 そういう話も面白い(笑)。僕は最大で1日7本(笑)。朝昼晩と観て、その後にオールナイトで4本観たので、本当に丸1日映画漬け。映画にはそこまでさせる魔力があるんですよね。
橋本 もっと行かなきゃ! ってなりますよね(笑)。私も池袋の新文芸坐で(マノエル・ド・)オリヴェイラのオールナイトを観たことがあります。
小西 それは、行く前に寝ちゃいそうだなあ(笑)。
『いとはん物語』に観る作品の強度
きょう・まちこ 1924年、大阪府出身。大阪松竹少女歌劇団で活躍後、49年大映入社。『痴人の愛』(49年/監督:木村恵吾)などその肉体美で看板女優に。また『羅生門』(50年/監督:黒澤明)『雨月物語』(53年/監督:溝口健二)など主演作が海外で高く評価された。代表作に『地獄門』(53年/監督:衣笠貞之助)『鍵』(59年/監督:市川崑)など。2019年、95歳で没。
——第1回のテーマは往年の大女優、京マチ子さんです。小西さんが推薦された映画は、伊藤大輔監督の『いとはん物語』(57年)。京さんが演じる、不器量で心優しい女性の運命を描いた作品です。
橋本 初めて拝見しましたが、すごく面白かったです!
小西 よかった! 京マチ子さんの映画では、『羅生門』(50年)や『雨月物語』(53年)などは名高いですが、正直、そこまで推したい作品でもなかったんです。でも『いとはん物語』は初めて観た時に、もう恥ずかしいぐらい号泣しちゃって。ふと見ると周りもみんな泣いてるんです。
橋本 私も泣きました。
小西 ただ、今の時代はちょっと難しい映画だと、女性の友達に言われました。


