中国外交部の次元で収められる問題ではないことを示唆
また、劉氏と金井氏の後ろには大勢の人がいた。中国は通常、外交部1階の応接室で他国の外交官を相手にする。問題が深刻になればなるほど、陪席者の数が増える。A氏は「おそらく、党宣伝扇動部や党対外連絡部などの要員がいたはずだ。場合によっては公安機関の人間もいたかもしれない」と語る。劉氏はもちろん、自分の本音は語れない。「個人の信条など語れば、自分の身が危うくなる」(A氏)からだ。
日本の外務省関係者によれば、日中協議は4時間ほど続いた。最初の3時間は日本産水産物の輸出入問題で、残る1時間で存立危機事態発言以降の日中関係について語り合った。当然、お互いの主張は平行線だった。この関係者によれば、劉氏は直接的な表現ではなかったが、もはや中国外交部の次元で収められる問題ではないことを示唆していたという。
A氏は「それでも、中国側が本音を示す時もある」と語る。中国側は本音を語りたいとき、応接室から車寄せに向かう際、廊下を歩きながら2人きりで本音をささやくのだという。もちろん、大勢の目が光っているから、今回はそれもできない。
中国の怒りが沸騰…「核心的利益」とは
では、なぜ、そこまで中国の怒りが沸騰したのだろう。中国は台湾問題を「核心的利益の核心」と位置付ける。A氏によれば、中国は外交協議の際、「核心的利益」を三つないし四つ挙げる。三つ挙げる場合は、台湾、チベット、新疆ウイグルを、四つ挙げる場合は前出の三つに法輪功を加えるという。なかでも台湾は、日清戦争(1894~95年)で日本に割譲を余儀なくされるなど、「帝国主義の犠牲の象徴として必ず統一しなければいけない場所」(A氏)と考えられている。
また、ナショナリズムも大きく作用している。中国に3度にわたって勤務した日本の外務省元幹部B氏は数年前、中国の知人から「ようやく我が国の親日派の数が、日本の人口くらいになった」と聞かされた。B氏は「中国で日本が好きな人は1割くらいにしかならない。まだまだ外国を訪れたことがない人も多い。中国共産党や外交部も日本に対して怒ってみせなければ、たちまちSNSで売国奴呼ばわりされかねない」と語る。
