2023年10月、北海道松前郡福島町で起きたヒグマによる痛ましい事件について紹介する。なぜ熊は人間を襲うのか、そして「人間の味を覚えた熊」の危険性とは——。宝島社の新刊『アーバン熊の脅威』からのダイジェストをもとに、この衝撃的な事件の詳細を見ていこう。
「保存食」として隠された若者の遺体
2023年10月31日午前10時半頃、北海道松前郡福島町の大千軒岳を登山中の消防士3人がヒグマに襲撃された。登山道を一列で進んでいた際、最後尾の男性が襲われ、先頭の男性が刃渡り5センチのナイフで熊の目元と喉元を狙って応戦。熊は首にナイフが刺さったまま逃走した。2人の消防士は軽傷で済んだが、この時点ですでに別の犠牲者が出ていたことが後に判明する。
警察の捜索により、登山道入口に置き去りにされた車の持ち主を特定するため調査が行われた。やぶの中で土や枝で覆われた男性の遺体が発見され、そこから30メートルほどの場所に消防士グループを襲った熊の死骸があった。熊は負傷後に「保存食」として隠していた遺体の近くへ向かい、そのまま力尽きたとみられる。
遺体は激しく損傷しており、DNA鑑定の結果、10月29日から行方不明となっていた北海道大学の22歳の男子学生と判明した。彼はカヌー部に所属する自然好きな学生で、翌春には大学院進学を予定していた。司法解剖の結果、死因は多発損傷による出血性ショックで、熊の胃の中からも遺体の一部が発見されている。
最も恐ろしいのは、このヒグマが明らかに「人間は食べ物」と認識していた点だ。消防士グループは熊除けの鈴を装備し、笛を吹き、火薬で音が鳴るピストルも使用していたが、それでも熊は彼らに接近して襲いかかった。大声を出したり、ピストルを発砲したりしても、熊はまったく怯まなかったという。
人間の味を覚えたクマは⋯
本来、ヒグマは臆病で用心深い生き物だが、食べ物への執着心は非常に強い。人間を「獲物」と認識していたからこそ、自ら消防士たちに近づいてきたのだろう。
さらに不気味なのは、前年に福島町に隣接する松前町で高齢夫婦がヒグマに頭部や腕をかじられて重傷を負う事件が発生しており、これと同じ個体である可能性も指摘されている点だ。
この痛ましい事件は、「熊は人間を捕食する」「人間の味を一度覚えると積極的に人を襲うようになる」という事実を再認識させるものとなった。2023年の中でも最も衝撃的な獣害事件の一つと言えるだろう。
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