「割り切ってほしいですよー。深津絵里さんを目標にするなんて言わないでほしいですよ。ひとつでしょ、目指すべきは。島崎和歌子さんでしょ?」

 さらに「自分のことが異様に見えてない」「パチンコ番組、全力でやれよ、バカ!」などと追撃されてしまう。それでも、野呂は食らいついていく。その姿が脚光を浴び、「噛み付く人」として様々な番組に呼ばれるようになった。ただ、その“キャラ”は本来の彼女には馴染まず、やがて頭打ちに。一方で、仕事への取り組み方や意識は大きく変わった。

「有吉さんにいただいた言葉、その1本で今まで頑張ってこれたっていうのはあります。『パチンコ番組、全力でやれよ、バカ!』っていう」(『ロンドンハーツ』2021年11月2日)

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 以降、ダチョウ倶楽部らと共演し、リアクション芸や「ケンカしてチュー」のくだりなども果敢に挑戦。片岡鶴太郎が、ダチョウ倶楽部に受け継がれたリアクション芸の「継承者」に野呂佳代を“指名”したこともあった(『金曜日のスマイルたちへ』2021年10月1日)。

“みんなの後輩”野呂佳代が嫌われない理由

 転機になったのは『ゴッドタン』(テレビ東京)だった。自分の理想の口説かれ方を自らが脚本を書いて演じる「私の落とし方発表会」での演技が評価されて、アシスタントに起用された。番組プロデューサーの佐久間宣行は「(『私の落とし方発表会』で)演技力がめちゃくちゃあったのよ、コントの。演技力がすごいあったから、劇団ひとりとかに対応できるんじゃないかと思ってキャスティングした」(『あちこちオードリー』2022年1月12日)と振り返る。

『ゴッドタン』Tverで配信中

 これが思わぬ“波及効果”をもたらした。『科捜研の女』(テレビ朝日)を筆頭に、『ゴッドタン』をスタッフが見たことがきっかけで演技の仕事のオファーをもらうことが続いたのだ。そして、短い時間の出演でもバラエティ同様、全力で取り組んだ結果、「30代で本格的女優」という目論見からは、少し遠回りしたが、見事にそこにたどり着いたのだ。

 それでも『ゴッドタン』を始めとするバラエティを「育ててくれた場所を大切にしないと自分を見失う」(『あちこちオードリー』2023年3月22日)と大事にしている。『ゴッドタン』は「私ごときが調子に乗るなよって戒めてくれる、“永遠の後輩ポジション”でいられる場所」(「テレ東プラス」2022年4月13日)だと。

 そう、まさに野呂佳代は、“みんなの後輩”なのだ。適切な距離感を取りながら、打てば響く。だからこそ、多くの人に可愛がられる。

本人Instagramより

 前述の「進路相談」で有吉は、「縁の下はもう嫌だ」と言う野呂にこう諭していた。

「でもね、支えてきた人ってのはね、やっぱりずっと支え続けなきゃいけないんですよ。そういうもんなんですよ。途中で『やーめた』『私も神輿の上に乗りたいな』じゃね、それこそ手のひら返しみたいになって一気に嫌われちゃいますからね」

 アイドル界でも俳優界でも、野呂佳代は、紛れもなく「遅咲き」だった。有吉の「支え続けなきゃいけない」という言葉を体現するように、彼女はバラエティでもドラマでも全力で周囲を支え続けてきた。その積み重ねがあるからこそ、彼女は嫌われない。遅れて咲いたその花の根は深く、太く張られ、見る者へ揺るぎない安心感を与えるのだ。

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