元警察官・白バイ隊員で、「女副署長」シリーズ、「流警」シリーズなど数多くの警察小説を手がける松嶋智左さん。最新作『刑事ヤギノメ 奇妙な相棒』(文春文庫)が、現在好評発売中です。体力はないが観察眼はピカイチ――そんな主人公・弓木瞳を描いた本作について、松嶋さんにお話を伺いました。

 このインタビューは、11月26日(水)朝5時台に放送された文化放送「おはよう寺ちゃん」の放送を元にしています。(聞き手:寺島尚正さん)(2回目/全2回)

『刑事ヤギノメ 奇妙な相棒』は文春文庫で好評発売中

各短編のタイトルに動物が入っている

——主人公の異名でありタイトルにもなっている「ヤギノメ」ですが、視野が広くて観察眼が優れている、というユニークな個性ですね。これはどのような狙いがあるんでしょう?

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松嶋 ヤギとか牛が(視野を広くもつために)目を水平に保っている、というのは以前から知っていたんです。それで、主人公を「体力がない女性」という設定にしたとき、それだと刑事課で働けない、でも必要とされるには何かしら特別なものを持たせなければと思いました。そうしたときに、ヤギや牛の目の特徴がなんとなく浮かんだんです。あんまり突飛だとリアル感に欠けますが、例えば、ヤギが敵から身を守るために視野を広くしている、というのを人間に置き換えて、観察感が非常に優れている、という風にしたら「あ、いいかな」と。本当にふっと浮かびました。 

——物語はそんな「ヤギノメ」をもつ瞳の能力で進んでいくのですが、今回の作品は事件ごとの5つの連作短編集となっています。これがまた、タイトルに動物が入っていて意味があるんですよね。ぜひ読んで感じてもらいたいです。読んだ後に「そうだったんだ」と勉強になるし、腑に落ちるところも多々ありました。

松嶋 ありがとうございます。タイトルの動物と事件の内容をリンクさせています。

——松嶋さんの中で、思い入れのある一作などはありますか。

松嶋 何と言っても最初の作品「刑事ヤギノメ」でしょうか。そのままのタイトルなんですけれども。最初の作品ということもあって、「自分が経験したことを元にした方がリアルだし書きやすいかな」と思って書きました。連続放火事件もありましたし、夜間にスピード取り締まりをして凍えるような思いをした、ということもあったので、素直に思い出せてリアルに書けましたね。同期も同じ経験をしているので、「とても面白かった」と言ってもらえました。

——そうでしたか。夜間の取り締まりは実際に体験したんですね。

松嶋 はい、もちろんです。

——寒そうですよね。

松嶋 寒いです、半端なく。だからと言ってストーブに当たっているわけにはいかないですし、凍えている風に見せないようにしなければいけない。

——見せないようにですか。

松嶋 はい、相手が目の前にいらっしゃいますからね。反社会的勢力の方ですとか。頑張った記憶があります。同期も同じ経験をしていたので、分かってもらえました。

——たしかに、今言われてみれば寒そうな様子を見せるわけにはいかないですよね。取り締まりですから、相手はそういう意味では違反をした人なわけで。

松嶋 そうですね、大体皆さん機嫌悪くなってますし、凍えているわけにはいかないです。

——何震えてんだ、みたいなね。

松嶋 そういう経験もありましたので、結構リアルに書けたんじゃないかと思っています。

——その他の物語ですと、特殊詐欺や住居侵入、そして殺人など身近でありながら複雑な事件を扱われています。こういったテーマはどうやって決めていくことが多いのでしょうか?

松嶋 アイデアは基本、新聞が多いでしょうか。新聞の記事を念入りに見て、あとはネットやテレビのニュース、実際に起こった事件やちょっと変わった出来事なんかを頭の隅に留めておいて、そこから空想を膨らませていく。現実とは違う筋道で、「こういう風に犯人がなったら面白いかな」と想像して書くことが多いですね。

——5つの作品を私も拝読しましたが、ミステリーなので「犯人は誰か」という読み方がありますよね。私の予想は全部外れました。

松嶋 そうでしたか!

——それは松嶋さん、さすがってことなんですよ。

松嶋 そう言っていただけると嬉しいです。

——1作目の結末を読んで「あ、そうだったんだ」って思いますよね。そうすると細かい会話に伏線が張り巡らされているんだろうなと思って、読むとまた面白いんです。

松嶋 そうですか。そういう風に読んでいただけると本当に嬉しいです。タイトルがちょっとお茶目な感じですが、中身はがっつりミステリーで、警察要素もありますので、そういうのがお好きな方には楽しんでもらえるんじゃないかなと思っています。

——ぜひともね、映像にもしてもらいたいな、なんて個人的に思うんですよ。

松嶋 本当ですね。主人公は誰かしら(笑)。