日本の映画史、演劇史に巨大な足跡を残した俳優の仲代達矢が92歳で他界した。
仲代は1975年に妻で脚本家・演出家の宮崎恭子と始めた「無名塾」で多くの俳優を育成した。
その一人が役所広司氏だ。
「僕は『ありがとうございました』という気持ちをお伝えするばかりでした。縁もゆかりもない僕を無名塾で一人前の俳優に育ててくれたのですから、ただただ感謝の思いしかありません」
役所氏は「文藝春秋」(2026年1月号及び電子版「文藝春秋PLUS」に掲載)に手記を寄稿し、仲代との衝撃的な出会いや無名塾入塾から始まる濃密な師弟関係を回顧し、師を追悼した。
「歴代の塾生の中で一番怒られているのではないかと思うぐらいによく叱られました」
役所氏が演劇の魅力に目覚めたのは、上京して2年後、20歳のときに同僚からチケットを譲られて見た『どん底』がきっかけだった。とりわけ仲代の演技に感銘を受けた。
「サーチンを演じた仲代さんが語り始めると瞬く間に劇場の空気が一変し、一気に『どん底』の世界に引き込まれました。仲代さんの演技には、おかしみとユーモアがあって終始笑わせてくれました。サーチンを含め、『どん底』の境遇にある登場人物たちは、もの知りのあやしい老人の出現によって、“人間とは何か”を考えはじめ、それぞれに夢や希望を見出していきます。見終わった後、『演劇って、こんなに人の心を動かすものなのか』と万感胸に迫りました」
それから2年後、スポーツ新聞で見た無名塾塾生募集の告知を見て、役所氏は入塾審査を受けることを決意する。応募者は800名ほど。不合格だったら郷里に帰ろうと思っていたが、無我夢中で審査に臨み、4名の合格者に選ばれた。
「僕は入塾初日から仲代さんにこっぴどく怒られました。入塾式に2時間も遅刻してしまったのです」
その後も役所氏は「歴代の塾生の中で一番怒られているのではないかと思うぐらいによく叱られました」。
そんな役所氏を仲代はどのように育てていったのか。弟子は師から何を学んだのか――。
役所氏の師・仲代への感謝の思いが込められた追悼手記は、「文藝春秋」2026年1月号及び電子版「文藝春秋PLUS」に掲載されている。
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出典元
【文藝春秋 目次】前駐中国大使が渾身の緊急提言! 高市総理の対中戦略「3つの処方箋」/霞が関名鑑 高市首相を支える60人/僕の、わたしの オヤジとおふくろ
2026年1月号
2025年12月10日 発売
1550円(税込)


