黒澤明監督作品など数々の名作に出演した名優・仲代達矢さんが、92歳で逝去した。役者70周年のインタビューでは、「役者は声・動作・姿が基本」と語り、卒寿を前に舞台への情熱を燃やし続けていた。そんな珠玉のインタビューを再公開する。
(初出:「週刊文春」2021年12月16日号 ※日付、年齢等は公開時のまま)
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「我が役者人生」
今もなお舞台に立ち続ける、日本屈指の名優。卒寿を目前に控えた今、映画史を彩った先達との思い出、そして自らの歩みを静かに振り返った。
一瞬一瞬を生きていきたい
彼は穏やかに話しはじめた。
「役者になって70周年ですけれども、80歳を過ぎますとね、名優なんて言っていただけるんです。しかしそれはとんでもない話でね。昔からいう“一声、二振、三姿”――振は動作ですね――が演劇役者の基本です。声のほうは日ごろから訓練してるのでどうにか出ますけれども、足腰は若い時と比べるとだいぶ参ってますよね。それをどうカバーしていくかが、私にとっては現役の役者を続けていくいちばんの課題です。だから名優と言っていただけるのはとても嬉しいですけど、だいぶ落ちてるなという感じがありますね」
役者70周年記念を銘打つ無名塾の舞台『左の腕』で、仲代達矢は物語の主人公を演じ、来年4月まで全87公演を行うために各地を回る。十分な体力を維持するためには、毎日1時間程度の軽い運動は欠かせない。
「やはり訓練ですね。来年90歳ですが、続けていくには毎日の訓練しかありません。もはや気力です」
1952年、俳優座付属養成所に入所して、彼の役者人生は始まった。その後、映画で脚光を浴び、大手映画会社各社に専属契約を持ちかけられたものの、演劇への強い思いから彼はフリーランスとして生きる道を選んだ。
「役者はあの役をやりたいなと思っても、話が来なければできない、そういう悲しい宿命にあるわけです。だから私は1年に1本、自分のやりたいものは必ず演劇でやろうと。それでいい映画の話が来ても、舞台があればそれをお断りして、わがままを言いながら演劇と映画を兼ねる役者生活を送ってきました。フリーランサーであったために、いろいろな方々、いろいろな作品との出会いがあった。それは非常に幸せなことでしたね。まあ、その分ギャランティは安かったですけど(笑)」
