今年の邦画界では、いくつもの「ヒット作」が生まれた。なかでも『国宝』は、6月6日の封切り日からこの半年のうちに興行収入173億円を突破し、日本の実写映画の興行成績におけるトップの記録を塗り替えた。まさに快挙といえる。
ここでよく話題に上るのが、俳優たちによる入魂の演技だ。歌舞伎の世界にすべてを捧げる男たちの魂のぶつかり合いには、たしかに誰もが息を呑まずにはいられないだろう。しかし個人的には、よく語られがちな主役級の俳優たちの脇に控えている者たちの存在にこそ、感動したものだ。誰かひとりでも欠けていたら、この快挙には至らなかったかもしれない。そのうちのひとりが森七菜だ。
出演作がことごとく「大ヒット」
彼女の出番はごくかぎられていたものの、その演技が本作に“深み”を与えた。しかも彼女は『国宝』のみならず、『ファーストキス 1ST KISS』『フロントライン』『秒速5センチメートル』といった出演作が、「ヒット作」になることにも貢献している。主演作こそなかったが、今年の映画シーンを語るうえで外せない存在なのだ。
今年公開された4作品で森が演じたキャラクターたちは、まったくバラバラだ。2月に公開された『ファーストキス 1ST KISS』では、主人公・硯カンナ(松たか子)の仕事仲間のひとりを好演。本作はSF要素が盛り込まれたラブストーリーで、物語は一組の夫婦の“愛”に主眼を置いている。主人公にとって仕事はあくまでも人生の一部でしかないから、森の印象が強く残っているわけではない。このポジショニングが的確だった。
物語における重要な役割というよりも、夫婦のラブストーリーを展開させるために脇からそっと支えるようなポジションを担っていた。目立ちすぎてもよくないキャラクターだったから、森の印象が強く残っていなくても当然。むしろ脇に徹していたからこそ、カンナの“想い”や夫婦の“愛”は際立ったはず。決して多くはない出番で役割をまっとうする森は、バイプレイヤー的な立ち位置にあったといえるだろう。
続いて6月に公開された『国宝』の森には、かなり驚かされたものだ。その出番がごくかぎられているのは先述したとおりだが、これがあまりにも短く、それでいて強烈だったからだ。
