警察が現場に突入すると……
警察「包丁突き付けられたら恐いでしょ」
被告人「この人が『監禁されています』って早く言えばよかったんだ」
被害女性「ごめんね、そうやねそうやね」
被告人「これで刑務所出られへんな! もう86やで」
被害女性「そこまでの覚悟持ってたんやね」
被告人「私に逆らわなければ、あんたもケガせんかったんや」
被害女性「ごめんごめん」
被告人「これも経験やな」
まるで悪びれる様子もなく、「これも経験」と述べていた被告人。そんな中、被害女性は被告人をこれ以上興奮させないようにか、もしくは傷つけられてもなお1人の利用者、患者であることを忘れないような態度で、やさしい声のトーンを保って話し続けていたのが印象的だった。
録音の最後には、警察官が部屋に突入する状況も流れた。それに安堵したのだろう、それまでの思いが堰を切ったように溢れ出た被害者の泣き声が法廷に響き渡った。
訪問看護従事者は事件をどう見ているのか
法廷で流された被害女性の泣き声はかなり鮮明で、傍聴席に強い同情の思いを抱かせた。この場面について、Aさんは「なんとかして逃げないとダメだった」と強い口調で語る。
「被害者も被告人宅を何度か訪問している中で、被告人がどういう性格的な特性があるのか、わかっていたはずです。私たちは看護する立場として利用者と接していますが、生活がきちんとできているか、どんな悩みを抱えているかを把握するのも大事な仕事です。
その中で異変や身の危険を感じたのであれば、不必要に利用者に寄り添わず、逃げるべきだったといえるのではないでしょうか」
こう話すAさんのトーンは、決して今回の事件の被害女性を批判するようなものではなかった。ただ、あえて厳しい意見を述べるところに、いかに日々神経をすり減らしながら従事しているのかが垣間見えるような気がした。Aさんの言葉からは訪問看護でこれまで見聞き、あるいは直面したであろうさまざまな経験を基に「訪問看護とは、リスクと隣り合わせの仕事である」ことを強く意識しているようすがうかがえた。
被告人の“暴れっぷり”は法廷でも……
被害者を切りつけたもともとの理由が、生活保護に頼る生活に嫌気が差して警察に捕まろうと「監禁されていると通報しろ」と指示し、拒否されたからだったという今回の事件。その傍若無人ともいえる加害者の態度は、法廷の場でも散見された。
続く記事では、身勝手な主張を続けて検察官に激怒される一幕もあった裁判のようすをお届けしていく。
