2025年4月、大阪市西成区で86歳の男性が、訪問看護で自宅に来た20代の女性看護師の手を包丁で切りつけたのち、そのまま包丁を差し向け続け、家から立ち去ることが困難な状態にする事件が起こった。
取り調べによると、当時生活保護を受けて生活していた男性は、「こんな生活もうイヤや」、「警察に捕まりたい」、「監禁されていると通報しろ」と被害女性に迫り、拒否されたことから切りつけたという。その後、傷害罪、監禁罪の疑いで逮捕され、このたび判決が言い渡された。
裁判では、重傷を負わされた上で監禁状態にあるにもかかわらず、加害男性をあくまで「患者」として扱い続けるけなげな被害者による通報時の音声が証拠として出された。
高齢化によって介護・看護の利用者が増えつつある中、こうした利用者による「カスハラ」の域をも超える事件は、今後も増えていくおそれがある。同事件の裁判を傍聴したライターの普通氏が、訪問看護事業に従事する人たちへのインタビューを交えつつ、医療の最前線で起こった悲惨な詳細をお届けしていく。(全2回の1回目/続きを読む)
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86歳の被告人は当時、生活保護を受給しながら生活していた。離婚歴があり、それを機に家族関係は疎遠となり、単身で暮らしていた。また、被告人は粗暴犯としての前科が複数あった。事件の7年前にも包丁を用いた強盗未遂などの罪で有罪判決を受けている。
被害女性によると事件当日、看護で被告人の自宅を訪問したところ「こんな生活は嫌だ」、「警察に捕まりたい」、「監禁されていると通報しろ」などと言われたという。それに対し断ったところ、切り付けられて左手の指の腱を断裂するほどの大けがを負った。
女性は血が止まらない傷口を抱えながら、その場で警察へすぐに通報した。その後、警察官が臨場するまで被告人から包丁を向けられ続け、家から出られなかったという。
実際に訪問看護の現場で起こっていることとは?
こうした事件には至らないまでも、利用者から看護従事者に対するハラスメントは訪問看護の現場でそれなりに起こっているようだ。
