『少女はアンデスの星を見た』

 2022年に日本で公開されたペルー映画『アンデス、ふたりぼっち』は、この年の個人的なベストワン映画だった。アンデスの山奥で暮らす老夫婦の物語で、孤独、貧困、過酷な自然環境――という絶望的状況下で、次々と容赦ない出来事が起きる展開に魂ごと抉られた。

 それを撮ったオスカル・カタコラ監督は次回作の撮影中に、惜しくも死去している。遺志を継いだ叔父のティト・カタコラ監督の手で完成したのが本作だ。そして、これもまた同様に、アンデスでの絶望的な物語が紡がれる。

『少女はアンデスの星を見た』©CINE AYMARA STUDIOS

 幼い頃に両親を失った少女・ヤナワラは祖父のエバリストの手でアンデスの山奥で育てられる。ヤナワラは落雷のショックで言葉を発することができなかったが、成長した彼女をエバリストは共同体で一つだけある学校で教育を受けさせようとする。だが、ヤナワラは学校の教師により性的暴行を受けてしまった。そこから、留まることのない悲劇が動き始める――。

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 とにかく、救いのない物語だ。エバリストはヤナワラを深く愛しており、彼女の行く末の幸福だけを考えている。にもかかわらず、彼の採った行動は全てヤナワラの状況を悪くしていくだけ。哀しみに満ちた二人の表情が全編を貫き、モノクロの映像がその生き地獄をより重々しく伝えてくる。二人を取り巻く共同体の土俗性が、その悲劇にさらに拍車をかける。二人の結末を冒頭で見せる構成にしたことで、上映中ずっと「最悪の結果になるしかないのか――」という重い気分がこちらを覆ってくる。そのため今作も、かなり抉られた。

 エバリストを演じるセシリオ・キスペが加藤嘉に似ているのもあって、二人の姿はどこか映画『砂の器』の終盤を思い起こさせるな――と思っていたら、ラストがまさに『砂の器』を彷彿とさせるカットになっていて、驚いた。本作も『砂の器』も、その後ろ姿が伝えるのは、いずれも村落共同体の内包する理不尽なまでの排他性。お涙頂戴にしていない分、本作のラストはさらに鋭角に突き刺さってくる。

『少女はアンデスの星を見た』

監督:ティト・カタコラ、オスカル・カタコラ/出演:ルス・ディアナ・ママニ、セシリオ・キスぺ/2023年/ペルー/104分/配給:ブエナワイカ/©2023 CINE AYMARA STUDIOS/12月20日(土)新宿K's cinemaほか全国順次公開

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