『殺し屋のプロット』
個人的な好みでは、今年の年間ベストテン上位クラスの作品だ。
認知症の進行が進み、引退して「終活」しようとする殺し屋が主人公。彼の元に、疎遠だった息子がやってきて、やむを得ず殺人を犯してしまったことを告げる。主人公は息子の犯罪を隠蔽するための企てを練り上げ、実行する。
本作のキモになるのは、邦題の通り「プロット」だ。主人公の計画のプロット、そしてそれを観客に伝える作劇としてのプロット。この双方がいかに精緻なものであるかが、作品が面白くなるか否かの最重要点になる。そして、これがいずれも抜群なのだ。
その上で効いているのが、主人公の設定だ。凄腕の殺し屋であるため、彼の立てた計画に隙はない。それだけでも魅力的な物語になりえるのだが、本作はそこにもう一つの要素が加わる。計画を実行に移す段階で認知症がどんどん進んでいくため、遂行中に記憶力も認識力もおぼつかなくなってしまうのだ。そのため、通常なら難なくクリアできる局面が、一気にハラハラドキドキの緊張空間に。それだけではない。この認知症という状況自体が彼の立てた計画の最大の核心であり、そのことが終盤の「えっ、どういうこと?」という全く先の読めない展開と、感動的なラストを巻き起こすことに。この際の観客に対する情報の出し入れも抜群で、ラストカットまで飽きさせることはない。
そして何より素晴らしいのが、主演だけでなく監督も務めたマイケル・キートンだ。もともと本心の見えない役柄・演技を得意とする俳優としての特長を、遺憾なく発揮。彼が何を企んでいるのか。冷静な状態なのか、認識を失っているのか。認識を本当に失っているのか、わざとそのふりをしているのか――。その境界を巧みに隠しているため、スリリングな展開をより盛り上げることに。演出家としても、終始抑制の効いたタッチが精密なプロットにピッタリだった。
意識や記憶の喪失を遠隔から支援する親友役でアル・パチーノも出演。裏社会で生き抜いてきた人間の見せる余裕や貫禄、そして温かさを感じさせてくれて、『ゴッドファーザー』で彼が演じたマイケル・コルレオーネの「その後」を思わせる好演をしている。
『殺し屋のプロット』
監督・製作:マイケル・キートン/出演:マイケル・キートン、ジェームズ・マースデン、ヨアンナ・クーリク、マーシャ・ゲイ・ハーデン、アル・パチーノ/2023年/アメリカ/115分/配給:キノフィルムズ/© 2023 HIDDEN HILL LLC. ALL RIGHTS RESERVED./公開中
