ヒット作を支える「食」の存在

 本作に登場する食べ物は、ヒロトたちの日常そのものを形作っている。本作の料理の数々が、映画『かもめ食堂』や『敵』、『団地のふたり』など良質な作品の多くを手掛けてきたフードスタイリストの飯島奈美によるものであることも大きい。

 ヒロトが作る日常の料理は、前述したように季節を感じさせるものもあれば、目玉焼きともやし炒めや、キャベツと肉炒めなど、自身の経済状況ときちんと向き合いつつ食材選びをしている人の日々の料理であることを想像させるものでもある。

『ひらやすみ』公式Instagramより

 第17話では、バイト先でなつみが作った失敗作の餃子入りの鍋をヒロトとなつみが食べていた。「もう店長あきれてるよ」と言うなつみの落胆に対し、「でも家で食う分にはうまい」とヒロトが返し、なつみは嬉しそうだ。失敗を成功に変えた第8話のアクアパッツァカレーのように、誰かと食べる美味しいご飯は、その日のマイナスな出来事をプラスに変えてくれるのである。

ADVERTISEMENT

 また、ヒデキと妻・サキ(蓮佛美沙子)が赤ちゃんを連れてくるというハレの日を、はなえ直伝のカツサンドが彩る第14話のように、ヒロトの中にある、はなえが作ったカツカレーやカツサンド、カリン酒という「食」に纏わる記憶もまた重要だ。

 第1話の時点で亡くなっているために、ヒロトの回想の中でしか存在していないはなえが、最終話において、ちゃんと本作の舞台である「平屋」の中心にいるような気がするのは、食べ物が人々の心をしっかりと結び付けているからだろう。