最終話までつながった「誰かを思いやる力」

「勝ち負けがすべての世界」に疲弊した、俳優だった頃のヒロトや、最終週における、会社で追い詰められ、心を病むヒデキのように、誰もが心を擦り減らし立ち止まってしまう可能性がある。

 逆に、自分が手に入れることができないものを持っている人を羨ましいと思う気持ちは誰にだってあることを、本作はちゃんと描いてもいる。苦しいときのよもぎとヒデキが思わず、いつも楽しそうなヒロトに対して向けてしまった苛立ちは、ヒデキを苦しめた職場の同僚・鬼龍院(三村和敬)がヒデキに対して言った「あんたみたいな役立たずが、何で家族とかいて幸せ面してんのかねえ」という言葉にも繋がっている。

 でもそんな現実の前だからこそ、ヒロトが、かつて自分を救ってくれたヒデキのために奔走し、そんなヒロトをなつみが不器用に気遣う姿に心動かされるのだ。

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『ひらやすみ』公式Instagramより

 最終話である第20話に、入院中のはなえのお見舞いに来たヒロトが、バイト先であるつり堀に咲いていた白いアジサイをプレゼントする回想の場面があった。それは家族に囲まれた他の患者たちの中で、孤独を味わっていたはなえを、ヒロトの優しさが救う場面であると同時に、第12話のある場面を思い起こさせる。

 誰もいなくなったつり堀で、彼はそこに咲いている花を見つけ微笑む。その後まるで、はなえの日課だったラジオ体操をするかのように、大きく伸びをするヒロトの姿が映し出され、次の場面で彼は仏壇にその花を供えている。つまり、はなえを大切に思う彼の思いは、彼女がその世界からいなくなってしまってもずっと続くのである。

 第10話で実家の愛猫を亡くしたよもぎが、祭りのために残業して作ったハリボテの「家」に描きかけていた猫の絵を完成させて「おかえりって言ってます」と微笑むようになった。『ひらやすみ』が描く「変わらない日常」は、そんな登場人物たちの強さと優しさで成り立っている。それはまるで、誰かが誰かを思いやる力の連鎖で、今にも壊れそうな世界を繋ぎとめようとするようで。『ひらやすみ』はそんな、力強いドラマだった。

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