「体を洗う」だけではない、とくに「こだわった機能」とは
ミライ人間洗濯機では、全身の洗浄に加えて「心も洗う」、つまりリラックスさせる機能も充実させた。具体的には、背もたれ部分のセンサーで心拍を測定し、心理状態に応じてAIが映像・音楽・水流を自動制御する仕組みを備えている。
大阪大学と共同で、水中でも心拍数を測定できるシステムを開発し、映像と音楽のプログラム作りにも時間をかけた。どんな映像で人はリラックスするのか試行錯誤を繰り返して解析していき、最終的に3種類のパターンを用意している。
こうした機能の試作だけで5~6個、さらに形状を決める模型は何度も作り直した。特にコストがかかったのは外側のカバーだ。「デザインにこだわれば金額が上がる。抑えようと思ったら単純化しなければならない。バランスをとるのが難しかった」と平江氏は振り返る。
万博開幕の約1年前からは最終形態の作り込みに入り、完成は開幕の10カ月前だった。プロジェクトには、ウルトラソニックバスの開発に携わったデザイナーの上田マナツ氏と、エンジニアである山谷英二氏も参画。2人は顧問として月1回のミーティングに参加しながら、デザイン面や万博会場での運用など、経験に基づく実践的なアドバイスを重ねた。
満を持して開幕した大阪・関西万博では、当初の想定を大きく上回る反響を呼んだ。当初は「1日5回」の運転で最大1000人の利用を想定していたが、予約が殺到。後半は「1日8回」に増やし、1日も休むことなく稼働。期間中は故障もなく、1回の体験が終わるたびに無人運転で浴槽を洗浄し、夜は強い殺菌剤を使用するなど衛生面も徹底した。最終的に1270人が体験した。
まるでドラゴンボールの「メディカルマシーン」
今回、大阪市内にあるサイエンス社のショールームでミライ人間洗濯機を体験する機会を得た。なお、通常は展示のみで体験は行っていない。
対面したミライ人間洗濯機は近未来的な見た目で、宇宙船のコックピットのような流線型のフォルムだ。デザインはシンプルでかっこいいが「これで体を洗う」と言われてもなかなかピンとこない。自分が中に入る姿を想像すると、少し形こそ違うが『ドラゴンボール』に登場する回復装置「メディカルマシーン」にも見えてくる。


