“消費税減税すべきか論争”を読み解くための学説
こうした「財政ポピュリズム」は今に始まったものではないが、昨今はコロナ禍による景気後退への対策が常態化したこと、また財政支出に関する学説がいろいろ出てきたことも契機になっている。論者がどの学説で論じているのか分かれば消費減税についての理解も速いし、自分で考えるさいにも役に立つ。ここでは(1)従来の財政学の赤字反対スタンス、(2)ニューケインジアンの条件選択的なスタンス、(3)MMT(現代貨幣理論)論者の高インフレが起こるまで財政支出は可能というスタンスの3つを説明しておこう。
まず、(1)の財政学のスタンス。財政学を専門にする論者の見解では日本の財政累積赤字は危機的状態にあり、どんな財政赤字でも批判対象になる。これは減税を嫌う財務省の立場に近い。次の財政学者・井堀利宏氏の指摘はかなり柔軟性のあるほうだと言える。「物価高で困窮する家計に政治が配慮するのは望ましい。しかし真の弱者に対象を限定した給付であるべきだろう。全国民対象の減税や給付金はインフレ抑制に逆効果であるだけでなく、財政規律を悪化させ将来に大きな負担を生じさせる」(日本経済新聞)。
(2)のニューケインジアンのスタンスも論者によってかなり幅があるが、不況での財政出動は当然だと考えている論者が多い。そのなかで以前は財政赤字に厳しかったが、2019年の論文「公的債務と低金利」でg>rであれば赤字があってもその経済に持続性があると論じたのがO・ブランシャールだった。gは経済成長率でrは金利。つまり、財政累積赤字が大きくても経済成長率が金利より大きい状態が続けば財政破綻しないというわけだ。安倍政権時代のプライマリーバランス論ではないかと思う人がいるだろうが、ブランシャールは「プライマリーバランスが赤字でもg>rが成立する条件がある」と述べている。
(3)のMMT論者においても創始者とされるL・R・レイはg>r式を自分の入門書で2012年の初版から取り上げている(『現代貨幣理論入門』)。しかし日本のMMT論者にとって財政累積赤字はほとんど問題にならない。自国通貨を発行できる国家ならばいくらでも財政支出は続けられ、国債は廃止してもかまわない。問題になるのはインフレだけで、その時は「増税すればいい」という。これは自民党右派の一部が導入したがっているが、危険なのはこの理論の根拠が脆弱なだけでなく、モデルを示さないので細かい場合分けができないことである。



