三冊目は、ぼくの十年分のコラムを集めた『君はそれを認めたくないんだろう』。ぼくはガケ書房のころから合わせると二十一年本屋業をやっているので、その節目にと思ってつくった本です。四冊目は、松本さんが興味を持ちそうだなと思った関裕二著『出雲神話の正体』。これはもうタイトルだけでビビッと。五冊目は、韓流ドラマ好きの松本さんに読んでもらいたい後藤哲也著『韓国グラフィックデザイナーの仕事と環境』。韓国の独立系出版と社会運動が重なり合っている状況を知ってもらいたくて選びました。

「話をしたら、なぜか息があった。ぼくは滅多にそういうことがないんだ」

 六冊目は伝説の漫画家・坂口尚のSFサスペンス『VERSION』。グラフィックノベルみたいですごくカッコいい。復刊です。七冊目は石の人著『海辺の石』。海辺においてある石のカタログなんですけど、眺めてるだけでも物語が想像できるので。そして最後は、『デイヴィッド・ホックニー作品集』。松本さんはホックニーがお好きなので」

「山下くんとは波長が合う」と松本さん。

 松本さんは山下さんの説明を聞き終えると、「じゃあ、全部買っていこう」と即決した。

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「ぼくと山下くんが出会ったのは何年だっけ」

「ぼくの店がここに移転してきたのが二〇一五年なので、おそらくその辺でしたかね」

「料理家の船越雅代ちゃんのホームパーティで一緒になったのが最初だったのは覚えてる。そのとき、隣に山下くんが座って。話をしたら、なぜか息があった。ぼくは滅多にそういうことがないんだ」

「松本さんはぼくの父親世代ではあるけれど、初めて会ったときからちょっとだけ年上の先輩という感じで、だんだんと友だちみたいな感覚になっていったんです。より絆を感じたのは、 和歌山県熊野地方の神社へ行ったとき。一緒に白装束を着て一生懸命松本さんをフォローしたことで信頼してもらえたのかなって」

おじさん文化にまったく興味のない七十五歳の青年

「二〇一七年二月の火祭り。あれでもう人生観が変わったよ。一メートルぐらいある松明を持って、腰に荒縄を巻いて、白装束で山を登るんだけど、命からがらだった。雨の日で道が悪かったし、垂直に近い角度の断崖を登るんだ。脇を覗けば真っ暗で奈落の底。途中の広場では男たちがケンカをしてる。よく生きて戻ってこれたと思うよ」