「まるで漫画みたいな世界でしたね」
山下さんは言う。
「松本さんは、お酒を飲まず、おじさん文化にまったく興味のない七十五歳の青年、という感じがすごくするんです。何年か前、細野晴臣さんと松本さんの会話をちらっと聞いたことがあって。するともう、大学生の会話やったんです。シン・ゴジラ観た? 観た観たって。ゴルフとか夜の街とか、いわゆる大人の社交をしてこなかった二人。だから、青年性を保っているんだろうなって」
東京が恋しくなったりしないんですか
夕食を食べながら、ふと松本さんに聞いた。東京が恋しくなったりしないんですか、と。返ってきたのは意外な答えだった。
「ホームシックはあるよ、正直。十数年間京都で暮らして、みんなやさしくしてくれるし、温かく迎え入れてくれた。でもやっぱりぼくは異邦人。自分の中の問題ではあるけれど。そして、やりたいことの百分の一もできてないなと最近思うんだ。コロナでリモートが流行ったけれど、どんなに技術が進化しても、対面じゃないとできないことがある。だから、やりたいことを完遂するには、東京にいるべきだろうなって。ただ、だからといって東京に傾きすぎると、大事なものをなくしてしまう。いまは左右のバランスの、ちょうどいい部分を探っているところかな。
ただ、晩年のひとり暮らしはいいものだよ。若返る。なにもかも奥さんに頼り切り守られていたころの写真のぼくは、いまよりずっと老けて見えるんだ。ひとりになって、なにができるようになったわけじゃない。こうやってご飯食べに行くことしかできないけれど、新しい場所へ、知らない場所へ、躊躇なく飛び込めるようにはなったからね」
白竹堂京都本店
住所 京都市中京区麩屋町通六角上ル白壁町448番地
https://www.hakuchikudo.co.jp/
ホホホ座浄土寺店
住所 京都市左京区浄土寺馬場町71 ハイネストビル1階
http://hohohoza.com/
松本隆(まつもと・たかし)
1970年にロックバンド「はっぴいえんど」のドラマー兼作詞家としてデビュー。解散後は専業作詞家に。手がけた作品は2,100曲以上にもおよぶ。



