トレンディドラマブームから距離を置いた「銀幕の清純派」

『澪つくし』の成功によって国民的女優となった沢口は、その後も多くの映画やドラマに出演する。筆者が個人的に好きだったのは、後藤久美子と共演した『痛快!ロックンロール通り』(TBS系)というコメディドラマだが、どちらかというと『独眼竜政宗』や『秀吉』といったNHKの大河ドラマのような時代劇での印象が強く、現代を舞台にしたドラマに出演したときは、どこか浮いているように感じた。

 このあたりはトレンディドラマブーム以降に人気を博した鈴木保奈美や山口智子といった同世代の女優との大きな違いで、月9がけん引していた当時のドラマブームとは外れた場所に着地したことが、沢口靖子の独自性だったのではないかと思う。

 トレンディドラマブームで注目された女優がファッション雑誌の読者モデルのような親しみやすい身近な存在として支持されていたのに対し、沢口靖子は、遠くから仰ぎ見る銀幕のスターのようなところがある。その意味で、昔の日本映画を基準にするならばど真ん中の清純派女優だが、80年代のテレビドラマを基準にすると異物だったというのが当時の印象で、生まれた時代を間違えたのではないかという居心地の悪そうな感じが、沢口靖子の魅力につながっていたように思う。

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『絶対零度~情報犯罪緊急捜査~』公式Instagramより

『古畑任三郎』“真面目すぎる犯人”がハマり役に

 そんな沢口の異物感が、見事にハマっていたのがドラマ『古畑任三郎』(フジテレビ系)の2nd seasonで演じた宇佐美ヨリエだ。

 三谷幸喜が脚本を手掛けた『古畑任三郎』は警部補の古畑任三郎(田村正和)が主人公の一話完結の刑事ドラマで、物語冒頭で犯人が罪(多くは殺人)を犯す姿が描かれ、事件の証拠を隠蔽した後、アリバイを崩そうとする古畑とごまかそうとする犯人の心理戦が会話劇として展開される。

 毎回豪華ゲストが登場するのが話題となった本作は、犯人役の俳優にふさわしい役柄やシチュエーションを三谷が書いていたのだが、沢口が演じたヨリエは宗教が母体となっている女子学院の戒律を頑なに守ろうとする女性で、感情を表に見せないため生徒からは「人間じゃない」とまで言われている。

 ヨリエが登場する「笑わない女」は、本作の中でも異色回で、保身よりも戒律に殉じることを第一に考えるヨリエの狂気が事件解決のカタルシスを上回るため、妙な居心地の悪さが残る。

 本作のヨリエは、現代を舞台にしたドラマにおける沢口靖子の起用方法の最適解だが、この異物感をヒロインとしてポジティブに描いたのが『科捜研の女』(テレビ朝日系)の榊マリコだろう。