長く愛されるヒロインとなった『科捜研の女』榊マリコ
『科捜研の女』は1999年から続くドラマシリーズで、現在は2024年に放送された『season24』まで製作されている。
本作は京都府警科学捜査研究所に所属する法医研究員の榊マリコが、研究員の仲間たちと最新技術を用いた科学捜査で事件の真相を解決していく姿を描いた一話完結の刑事ドラマ。
榊マリコのキャラクターは、沢口靖子の持つクールな魅力が全面に打ち出されているが、長寿シリーズゆえにキャラクターには変遷がある。当初のマリコは仕事はできるが、普段はかわいい部分もあるというコメディタッチの描かれ方だったが、シリーズが進むとコメディ要素が薄れてシリアスで落ち着いたものへと変わっていく。
1999年のseason1から順番に観ていくと、沢口靖子の変わらない部分と少しずつ変化していった部分がわかって面白いのだが、最終的にクールな理系ヒロインとしての側面よりも、愛嬌のある優しい人柄が滲み出るようになっており、だからこそ長く愛されるヒロインとなったのだとよくわかる。
『相棒』を筆頭にテレビ朝日の刑事ドラマは、何年も続く長寿ドラマが多く、視聴者から圧倒的な支持を受けている。
『科捜研の女』はその嚆矢となった作品だが、始まった当初は、月9を筆頭とする民放プライムタイムのテレビドラマとスタイルが違うため、とても異質なドラマに思えた。
しかし、何年も続ける中で、このスタイルが逆に王道となり、他局のドラマにも影響を与えている。当時は目新しかった科学捜査というモチーフも、今では刑事ドラマの一ジャンルとして定着している。
女優としては正統派ゆえにテレビドラマでは異質の存在だった沢口靖子にとって、当初は異質に見えた『科捜研の女』が、一生のハマり役となったのは、ある種の必然だろう。おそらく彼女には異端を王道に変える力がある。
60歳にして初の月9主演『絶対零度』
そんな彼女が、60歳にして初の月9ヒロインを演じているという状況は、実に興味深い。
『絶対零度』は情報犯罪を題材にした一話完結の刑事ドラマで沢口が演じるのは、DICT(情報犯罪特命対策室)の巡査部長・二宮奈美。チームの最年長として活躍する二宮奈美は『科捜研の女』の榊マリコの延長線上にある役柄に思えるが、テレビ朝日とフジテレビの作風の違いだろうか、榊マリコと比べると二宮奈美の描写は、シリアスで陰影が強調された画面構成のためか、重苦しいものとなっている一方、年齢を重ねたこともあり、シリアスな表情とセリフ回しも板に付いたものとなっている。
60歳にして初の月9主演を果たしたことで、女優として次のステージに入ったと言えるだろう。沢口靖子の今後が楽しみである。

