C級プロデューサーの脚本
原田 これはチミノの伝記にも出てくるんですが、ベトナム戦争は“後付け”だった。もともとは、あるC級プロデューサーと脇役の俳優が書いたロシアン・ルーレットを題材にした脚本があって、その脚本をEMIフィルムズのプロデューサーであるバリー・スパイキングスとマイケル・ディーリーの2人が購入した。ロンドンが拠点のEMIはアメリカに食い込んで映画を作りたかったんです。それでマイケル・チミノのエージェントをやっていたスタン・ケイメンを通して、チミノに渡った。これを読んだチミノは、鉄鋼業に従事するスラブ系コミュニティの設定にして作品を撮るプレゼンをして、映画会社からゴーサインを引き出したんです。
芝山 なるほど。そういう経緯があったんですね。
原田 ただ、EMIの資金面の関係で、4カ月以内にクランクインしないといけない状況だった。その拙速と混乱のなかで、チミノは元の脚本があるのにもかかわらず、自分で書いたことにしてしまう。これは後に大きな問題になります。さらに、自分が呼んできたデリック・ウォッシュバーンに脚本を書かせているにもかかわらず、クレジットを自分名義にしてしまう。さすがにライターズギルド(脚本家組合)が介入する事態になったわけです。
チミノはエゴの塊なんですね。スコセッシやスピルバーグは仲間を集めて、いい映画を作り、広げ、あるいは次の世代も含めて教育して、今にいたるまで活躍している。そういった70年代の流れとは違うところに行ってしまった。
※この対談の全文「70年代ハリウッド万歳!」は、文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています。
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