現在公開中の映画『てっぺんの向こうにあなたがいる』で登山家を演じている吉永小百合さん。そのモデルとなるのは、女性としてエベレストへの世界初登頂に成功した登山家・田部井淳子さんだ(2016年死去)。自身がパーソナリティを務めるラジオ番組で、ゲストとして出演した田部井さんに魅了されたという吉永さんが、その思い出と映画にかけた思いを語る。

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初めてピアスの穴をあけました

 私が田部井さんと直接お話しするのは一度切りになってしまいました。けれどもその1回の印象があまりに強烈だったので、今回、映画『てっぺんの向こうにあなたがいる』(10月31日公開)で、田部井さんをモデルにした役のお話を頂いた時、一も二もなく出演を決めたのです。

吉永小百合氏 『てっぺんの向こうにあなたがいる』10月31日(金)全国公開 Ⓒ2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会 キノフィルムズ配給

 ラジオ番組でご一緒した時、田部井さんはチベットあたりの民族衣装のドレスを着ていらして、とってもお似合いで素敵でした。また耳にはピアスをしていらして、それもすごく若々しい印象を醸し出していました。

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 私自身、「もうすぐ70歳になるから、それを機会にピアスをしたいな」と考えていたんです。それでいつピアスの穴をあけたのかお聞きしたら、52歳の時にニューヨークシティマラソンに出場し、完走した自分へのご褒美に、その足で五番街のお店に行ったというんです。

田部井淳子 ©文藝春秋

 今回、少しでも田部井さんに近づきたくて、計画よりは10年近く遅くなりましたが、人生ではじめてピアスの穴をあけました。田部井さんのご家族からも、形見のピアスを頂きました。「田部井さんなら、この場面ではきっとピアスを着けていただろう」と思うシーンでは、それを着けて撮影に臨むようにしました。不思議なことに、田部井さんのピアスをするととても自由な気持ちになり、前向きになれるんです。