凶暴な百合子さんが、内面に抱えていたモノ
百合子さんの心理テスト結果から、深刻な心の傷が残っている事が分かりました。職場のいじめによるトラウマです。ただ、母親の過干渉の影響もあって、人からどう見られるかを過剰に気にするので、外では本音が言えず、弱音も吐けず、かなりの疲労を抱える傾向もありました。
外で本音を言えない、人の顔色を窺って我慢してしまう事による疲れが、帰宅後にイライラとなって表出し、それが達夫さんや娘さんに向けられていたと考えられます。ですが、達夫さんに対する愛情はあり、唯一無二の依存対象となっている事も分かりました。
夫婦の照らし合わせで2人のテスト結果を説明した後、私は言いました。
「百合子さんにはトラウマの解消が必要です。トラウマの治療に一番重要なのは、実は『治療環境』なんです。それは、傷つけられたり、悲しんだりする事なく、怖い事、嫌な事が起こらない日常を実感する事です」
「治療環境……」
耳慣れない言葉に2人はちょっと戸惑っていました。
凶暴になってしまった性格を変えるために、必要なこと
「難しい事ではないですよ。つまりは、穏やかな日々を過ごすって事ですから」
「それで良くなるんですか?」
達夫さんの質問に私は頷いて答えました。
「穏やかな日々は達夫さんも望まれているので、お2人にとって必要なものは一致している、ということです」
「私のイライラは、おさまるんですか?」
百合子さんの質問に私は答えました。
「ご自分の心の中で、達夫さんへの見方を変える事が必要です。達夫さんは百合子さんを傷つけた職場の人ではありません。百合子さんを傷つけたり、悲しませたりする人ではなく、百合子さんの期待に応えよう、望みをかなえてあげよう、力になりたいと思っている人です。改めて、達夫さんがやってくれている事に注目してみて下さい」
「やってくれている事……」
百合子さんがつぶやいたので、私は続けました。
「たくさんあるんじゃないですか? 掃除してくれたり、洗濯してくれたり」
百合子さんは頷きます。
「はい。よくやってくれる方だと思います。でも、もうずっとなので当たり前になってしまって」
「達夫さんは百合子さんの為に、とても頑張ってくれていると思います。その事に改めて『助かるな』『ありがたいな』という気持ちは持って下さい」
百合子さんは小さく頷きましたが、「出来るかな」とつぶやいたので、私は付け加えました。
「カウンセリングで気づいた事は、その後、ご自身の中で繰り返し、繰り返し思い起こす事が大切なんです」