達夫さんが「妻の言いなり」になったきっかけとは?
「妻が職場でいじめにあって。辞めざるを得なくなったんです」
長女は高校生、次女は中学に上がった時だったそうです。経済的にはさらに困窮。百合子さんは慢性的にイライラしており、料理も次女にやらせ、ほとんどの家事をしなくなったそうです。
「あまりにイライラしているので妻には何も言えなくなりました。娘への暴力を止めようとするとエスカレートするので、何もできなかったです」
言いなりになるしかない。達夫さんは学んでしまったのです。DV被害に遭い続けた妻たちも、同じように学びます。
達夫さんの心理テスト結果からは、強い喪失不安が認められました。早くに父親を亡くしたことで、悪い事が起こる予感を慢性的に抱いている傾向も認められました。現在に安心感が持てないままなので、とにかく自分が耐えるしかないと考えていたのです。また、諍いを極端に嫌う傾向があり、穏やかに暮らしたい願望が強く認められました。
結果を達夫さんに伝えると、
「そうなんです。本当に、穏やかな日々だけが望みなんです」と達夫さんは深く頷きました。
「職場のいじめで、イライラが余計にひどくなってしまって」
百合子さんは、母親がかなり過干渉で、百合子さん自身も叩かれて育った事が分かりました。勉強にもとても厳しかったそうです。達夫さんと結婚するまでは実家暮らし。結婚してようやく自由になれたと感じたそうです。
ただ、子育てにはすごく苦労した、とのこと。達夫さんの話と一致します。百合子さんの家事、特に片付けの苦手さは達夫さんの話からも気になっていました。ですが、百合子さんは普通高校を出ており、学校での勉強は出来たそうですし、学校から「集団適応が悪い」といった指摘もなかったとのこと。発達障害の可能性は低いと考えた所で、私は達夫さんの言っていた事を思い出して百合子さんに尋ねました。
「そういえば百合子さん、茶道をやってらっしゃるとか」
「ええ」
百合子さんは頷きます。
「それで、着物をたくさん持っていて、その片付けだけはご自身でやっている、と達夫さんからうかがったのですが」
「はい」百合子さんは頷きます。
「高価なものですし、手入れも大変ですけど、着物だけは主人には任せられないので」
大事な物は自分できちんと片付けられる。だとすると、発達障害の可能性は否定していいでしょう。
「それ以外の片付けは苦手なんですね?」
私が尋ねると百合子さんは答えます。
「どれだけ夫が協力的でも、思っていた以上に仕事と家事育児の両立が大変で。私、不器用な方なので。それに職場のいじめで、イライラが余計にひどくなってしまって」
今で言えばひどいパワハラに遭っていたけれど、住宅ローンもあるので我慢していたそうです。
