ついに堪忍袋の緒が切れた

 そんなある日、金のことで口論になった智子は、市村に「出て行け!」と怒鳴りつけられた。智子としては堪忍袋の緒が切れた瞬間だった。

「何で私に対してそんな言葉が言えるんだろうと腹が立ち、同棲を解消することにしました。引っ越し費用もなかったので、荷物を運び込めるように近くの物件に転居しました」

 これで2人の交際は終わったはずだったが、市村はその後、手土産を持って何度も智子を訪ねてきた。

ADVERTISEMENT

「キミに他の人と幸せになってほしいと言ったけど、まだ好きという気持ちがある。他の男と会っているかと思うと、殺したくなるような感情がある。やっぱりヨリを戻してほしい」

 こんなことを言ってアパートに泊まっていき、性行為で懐柔するのだ。智子は「また同じ過ちを繰り返すのはイヤ」と拒絶していたが、まだ市村のことが好きという感情もあった。

「家賃が一度も支払われていない」

 ところが、同棲解消から1カ月後、アパートの管理会社から「市村さん宅の家賃が一度も支払われていない。市村さんと連絡を取ってほしい」という電話がかかってきた。市村に伝えると、「支払い期日を延期してもらったから、もうすぐ払う」とのことだった。

 だが、翌月も同じような電話があり、智子が怒って市村宅に抗議に行ったところ、「派遣会社で働き始めたばかりで金がない。でも、滞納問題はまもなく解決すると思う」などと説明された。

 市村とは口論になっていたはずなのに、話の途中で「好きなんだ」と押し倒され、またも性行為で懐柔された。その日、智子は久々に市村のアパートに泊まった。

「そのときは昔みたいに仲が良かった時代に戻れた気がして、今まで彼がしてきたことをすべて許して、私が水に流せば元の関係に戻れるんじゃないかと思いました。金銭トラブルといっても、たった50万円のことだし……」

写真はイメージ ©getty

 だが、市村が話していた返済期日に、智子が念を押すように〈本当に大丈夫でしょうね〉とLINEすると、2日経っても「既読」にならず、それっきり市村との連絡は途絶えた。智子はその態度の落差に戸惑った。

次の記事に続く 《懲役は⋯》リュックサックに包丁を入れてアパートへ⋯ウソを止めない元カレを殺害した「22歳女性のその後」(平成30年・東京)