元恋人への執着と金銭トラブルは、ついに刃傷沙汰へと発展する。自殺未遂、再燃する殺意、そして未明の侵入――。包丁を手にアパートへ向かった22歳女性は、どのような心理の末に殺害へ至ったのか。平成30年・東京で起きた事件のその後とは? なお登場人物はすべて仮名である。(全2回の2回目/最初から読む

写真はイメージ ©getty

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刃傷沙汰に発展

 智子が市村のアパートに押し掛けると、明らかな居留守を使われ、パニックになった。玄関ドアのU字ロックの開錠方法を調べ、部屋の中に押し入ると、見知らぬ男性が一緒にいた。

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「この人は誰?」

「先輩だよ」

「私は気が立っている。危ないから、外に出て行ってください」

 智子の剣幕に気圧された男性は外に出て行き、市村と2人だけになった。智子はキッチンから包丁を持ち出して暴れ、剣道の心得があった市村が迎撃すると、自分の足を包丁で切ってしまった。すごい血が流れ出てきたので、2人は救急車を呼び、話し合いは中断。幸いにも傷は浅かったので、その日のうちに帰ることができたが、市村と別れてから智子の頭の中はゴチャゴチャになった。

「お金のことを話しても取り合ってくれず、今までされてきたことや辛い記憶がよみがえってきて、もうイヤだ、こんな生活は続けたくないと思い、インターネットで自殺の方法を調べました。首吊りはうまくいかず、酒と薬を大量に飲むことにしました」