次に気が付いたのは大学病院のベッドの上だった。智子の兄が運んだのだ。2日間入院することになり、退院後は兄の家で一泊することになった。

「自殺なんかしちゃいかん。自分の命を大切にしろ。もう市村のことは放っておけ」

 しかし、兄に自分のアパートまで送ってもらって、一人ぼっちになると、また辛い記憶がよみがえってきて、市村に対する殺意が芽生えた。

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殺害の日

 事件当日、智子は未明に起きたとき、まだ市村に対する殺意が消えていなかったことから、リュックサックに包丁を入れて市村のアパートに向かった。

 以前と同じ方法で侵入し、部屋に入ると、市村がテレビをつけっぱなしにしてソファで寝ていた。最後の場面について智子は次のように説明した。

「辛い記憶もありましたが、楽しい思い出もあったので、彼の足元に座って30分ぐらい考えました。でも、最後は辛い記憶の方が勝ってしまい、包丁を振り上げ、そのまま重力に任せて振り下ろしました。刃先は彼の鎖骨あたりに刺さりました」

 市村は目を覚まし、体を起こそうとしたが、すぐに呼吸がおかしくなった。気道に血液が流れ込んだのだ。

 智子は自分も自殺しようと思い、一度、自分のアパートに戻って、また酒と薬を大量に飲んだ。

 再び市村のアパートに戻り、その横で手首を切って、市村に寄り添うように意識を失った。

 その後、智子の兄から「妹と連絡が取れない。安否確認をしたい」という110番通報があり、駆け付けた警察官が2人を発見した。