熊への備えもアウトドア経験も十分だった――それでも悲劇は防げなかった。2018年、カナダ・ユーコン準州の人里離れた山小屋で、37歳の母親と生後10カ月の幼児が命を落とす熊襲撃事件が起きた。異変の背景にあったのは、自然環境の変化によって「腹をすかせた熊」が人の生活圏に踏み込んできた現実だった。宝島社『アーバン熊の脅威』より一部抜粋してお届けする。
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母子が殺された熊事件
2018年11月、アラスカに接するカナダのユーコン準州にある山小屋のそばで、37歳の母親と10カ月の幼児が遺体で見つかった。父親は、猟から帰る途中で前方から駆けてくるハイイログマを射殺。その後、山小屋近くの湖のほとりで倒れている妻子を発見した。
父親は緊急事態時用の発信機を使ってすぐに助けを求めたが、時すでに遅し。王立カナダ騎馬警察(カナダの国家・連邦警察)が、近隣の町からおよそ400キロも離れたこの山小屋へ到着する前に母子ともども帰らぬ人となってしまった。
検死によると、殺害された母子は、散歩に出かけていたところを熊に襲われたとみられる。
事件に遭った夫婦は、アウトドア好きが高じて3年ほど前、狩猟目的で滞在するために湖近くの山小屋を購入。休暇を利用して、たびたび自然の中での生活を楽しんでいた。
母親は教師だったころからまとまった休みがなかなか取れずにいたが、この時は産休期間を利用して、およそ3カ月前からこの山小屋に滞在していた。夫婦ともにアウトドア生活の経験は豊富で、熊に関する知識も十分に備わっていたとみられる。しっかりと準備をし、熊害への警戒もしていたなかでの悲劇となった。
