田宮が1000万円を渡した男

 衝撃的な死の直後から巨額資金話のキーマンとして注目されていた人物がいた。竹ノ下秋道(当時50歳)なる男で、「関東畜産協同組合」の理事長を名乗っていた。取材に訪れた記者に対し、土地を担保にした30億円の融資を田宮に持ち掛けたことは認める一方、「M資金は無関係。ああした事態は、私自身としても解明したい」と語っていたものである。

 東京・調布の旧宅を田宮が売りに出していたのを、不動産屋の店頭で目にしたことが知り合うきっかけだったという。当時の報道では、巨額融資話に関し田宮に実害が生じていたかどうかは明らかにされていない。

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 が、例の「M資金関係事案別チャート綴」によれば、実害はあったとされる。1978年3月20日、2000億円融資の手数料として田宮は1000万円を竹ノ下に渡していたのだという。この時、竹ノ下は仲介役で「資金利用者捜し」の本尊は斉藤博久(生年不詳)なる人物とされた。

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 斉藤は「パシフィック・アソシエート・コーポレーテッド」なる会社の関係者と称し、つながりのある氏名不詳の男2人が東京・大手町のパレスホテルに宿泊していたのと同じ時期、竹ノ下もそこに宿泊していた。田宮が1000万円を渡した12日前に斉藤の代理人を名乗る「比山」なる人物が銀行に小切手を持ち込んでいたことも確認されていたようだ。

アイドル「フィンガーファイブ」メンバーを騙した詐欺事案

 それから20年あまり後、竹ノ下の名前は思いがけないところで持ち上がる。1999年3月、竹ノ下は大手銀行の頭取3人に関する住民票を不正に取得した上で都内や神奈川県内で銀行口座を相次ぎ開設していた。そんななか、都内でさらなる口座開設をしようとしたところ行員に見破られ、警視庁に逮捕されたのである。その捜査の過程で浮かび上がってきたのが、アイドルグループ「フィンガーファイブ」の元メンバーを騙した詐欺事案である。

 その3年前、経営していた不動産会社が倒産し中国での農業ビジネスで再起を図ろうとしていた元メンバーに近づいた竹ノ下は、こんな話を持ち掛けていた。「戦後、GHQが接収した旧華族の財産二百兆円が返還され、各省庁に分配された。農水省の外郭団体が管理しており、三百億円を融資する」――。そんな典型的な「M資金」まがいの話である。

 1兆円の国債償還金が銀行などに分配されたという資料を手に堂々と騙る竹ノ下を、元メンバーはすっかり信じ切り、印紙代として現金400万円を渡してしまう。ほかにも竹ノ下は神戸にある貿易会社の元社長らを騙しており、少なくとも25人からせしめた詐取金は計5200万円に上ったという。最初の逮捕容疑である不正に開設した頭取名義の銀行口座は、相手を信用させるための小道具だった。

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