一般には知られていない莫大な秘密資金の存在を匂わせ、投資を迫る――。そんな手口で数々の経営者や資産家から金を巻き上げてきた「M資金詐欺」。

 元を辿れば「M資金」とは、終戦後に広まった「GHQが日本から接収した資産を隠している」という噂から始まった言葉だ。そんな荒唐無稽な話を、名のある権力者たちがどうして次々に信じてしまったのだろうか。

 ここでは『ペテンに踊る M資金の魔力に憑かれた経営者たち』(宝島社)より一部を加筆して紹介する。1969年、全日本空輸(現在のANAホールディングス)社長の大庭哲夫氏を狙ったM資金詐欺の手口とは……。(全3回の2回目/続きを読む

ADVERTISEMENT

ロッキード事件の第2次国会証人喚問で証言する大庭哲夫氏 ©時事通信社

※本文中は書籍転載のため敬称略

◆◆◆

3万人に上ったM資金詐欺に関与するブローカー

 ここにずいぶんと古い資料がある。

「M資金対象者名簿」

「M資金関係事案別チャート綴」

 それぞれにはそんな表題がつけられており、ともに手書き原稿を複写したと見られる作りだ。60ページにわたる前者には関係者約900人分の氏名、生年月日、住所、本籍、関連事案、犯歴などが記され、35ページある後者には、グループの系統図や「故俳優田宮二郎関係」から「東京相互BK(偽造通知預金証書)関係」に至るまで24件の個別事案について、人物名や関与の詳細などがチャート図にまとめられている。記載内容から判断するに、1981年の終わり頃に作成されたもののようだ。

M資金関係事案別チャート綴

 その体裁からして違和感がないのだが、これら「M資金」を巡る資料は捜査機関が作成したものとされる。それがどういう経緯か、とあるブラック系の経済ジャーナリストが手にするところとなり、やがて1990年代半ば頃に過剰債務のくびきから逃れたいあまり、会長が巨額資金話にのめり込んでいた大手企業の広報室長へと持ち込まれ、そして今現在、それが目の前にあるといった具合だ。

「M資金」を騙る詐欺は一大犯罪ビジネスに

 事実、件の資料が作成された当時、「M資金」を騙る詐欺は、ある種のブームとなっていた。

「30社に幻の融資話/京阪電鉄事件一味/千葉でも八千万円」(『読売新聞』1969年9月22日付)

 

「『M資金』を本格捜査/特種製紙事件も一味/“周辺”五人近く聴取」(同・同年11月13日付)

 

「“M資金”だましのテクニック/数十人“分業”で融資演出/喫茶店で『極秘』に接触/特種製紙の場合/仕上げは伊予の殿様/『巨額融資』全部ウソ/警視庁が断定」(同・同年12月13日付)

 

「また疑惑の“巨額融資”/世界和平連合会(外務省の許可団体)を捜査へ/欧州財閥かたって/『3兆円導入のため』と数億円集める/詐欺で告訴/被害の元役員」(『毎日新聞』1980年1月4日付)

 

「三兆円をエサに詐取/東京地検『M資金事件』の男起訴」(『朝日新聞』同年9月15日付)

 

「M資金サギ二億円/東京地検/会社食いの大物起訴」(同・同年9月23日付)

 

「巨額ニセ預金証書/ちらつく“M資金”の影/架空融資の“小道具”/問い合わせ10件も/届け出さぬ被害者」(『読売新聞』1981年9月3日付)

 

「“黒幕”三人つきとめる/『M資金』詐欺事件/偽造証書など押収」(同・同年10月20日付)