一般には知られていない莫大な秘密資金の存在を匂わせ、投資を迫る――。そんな手口で数々の経営者や資産家から金を巻き上げてきた「M資金詐欺」。

 元を辿れば「M資金」とは、終戦後に広まった「GHQが日本から接収した資産を隠している」という噂から始まった言葉だ。そんな荒唐無稽な話を、名のある権力者たちがどうして次々に信じてしまったのだろうか。

 ここでは『ペテンに踊る M資金の魔力に憑かれた経営者たち』(宝島社)より一部を抜粋。コロワイド会長・蔵人金男氏が31億円以上も騙し取られてしまったという「M資金詐欺」の驚きの手口とは……。(全3回の1回目/続きを読む

ADVERTISEMENT

蔵人金男氏 ©時事通信社

※本文中は書籍転載のため敬称略

◆◆◆

戦勝国の秘密マネーを管理する特殊機関

 外食チェーン大手のコロワイドで会長を務める蔵人金男(当時69歳)が「アジア経済協力会議所」なる一般社団法人を訪れたのは、2017年7月21日金曜日のことだ。意外な話だが、本社のある横浜市内から東京都心まで足を延ばすことなど、蔵人にとってそうそうあることではなかった。首都高速道路を北上した車は京橋インターを出ると、一般道を左に折れ西へと向かった。

 東京駅前に聳え立つ高層オフィスビル群の一角、皇居への行く手を遮る馬場先濠に面して佇む瀟洒な丸の内郵船ビルディングの1階が目的地だ。といっても、そこにあるのは小ぎれいで機能的ながら、どこも似たり寄ったりな大手レンタルオフィス会社のブランチのひとつで、目的のアジア経済協力会議所は数多い利用者のそのまたひとつに過ぎず、来訪者を迎え入れるために看板を掲げていたわけでもなかった。

東京駅前 ©TECHD/イメージマート

「この世界では顔が広く、お金が出せるらしい」

 蔵人にその存在を紹介してくれたのは、やはり横浜市内に本社を置く工作機械メーカー、ソディックで9年前まで会長を務め、その頃は自らが設立した「TGコンサルタント」で社長を名乗っていた塩田成夫(当時69歳)だった。

 この日の訪問に先立つ2日前の日付で蔵人は「ご提案書」と題した書面を件のアジア経済協力会議所宛てに差し入れていた。

「拝啓、このたびは、事業強化ミッションの機会を得ましたこと謹んで感謝を申し上げます」

 書面にはそう書いていた。さらなる業容拡大に向け、まとまった資金を調達したいとの思いからしたためたものだ。

 蔵人と塩田が現地に着くと、そこには「国際プロモート」なる会社で特別顧問の肩書を持つ吉江節子と、「ササキシズオ」なる男性がいた。どうやら、塩田も人伝にその存在を聞いていただけだったようだ。

 落ち合った4人のうち建物内に入って行ったのは蔵人と吉江の2人だけだ。迎え入れたのはアジア経済協力会議所で「専務理事」を名乗る長身の中年男である。その時の蔵人は知る由もないが、専務理事はちょうど一回り年下の57歳だった。