審査料の200万円を振り込んだ2日後の9月1日、蔵人は計12枚からなる事業計画書をアジア経済協力会議所に提出する。国内店舗の出店増強と既存店舗の補修・リニューアルに1950億円、野菜収穫プラントの建設と運用に1800億円――。それら総額は5000億円に上った。
コロワイドの売上高に比べ2倍超という途方もない巨額資金を求めたのである。蔵人の指示のもと、この計画書を何度も練り直しつつ作成したのはほかでもない、社長の野尻だった。
「騙されてますよ」
野尻はことあるごとに蔵人をそう諫めていたようだが、最後は従順なイエスマンとして命に従っていた。
「保留」という結果と先生からの「助言」
3日後、アジア経済協力会議所から蔵人のもとに通知があった。
「審査の結果、今回は保留とします」
つまりは不合格だ。通知には誤字もそのままに続けてこう書かれていた。
「今後どうするかを下記、A又はBを選択くし(ママ)ご返答ください。/A:これ以上申請しませんので残金160万円を指定口座に返金してください。/B:保留理由につて(ママ)の助言を希望します(助言料160万円)。預け残金160万円から差し引いてください」
どうやら、先に振り込んだ200万円のうち160万円は助言料だったらしい。翌日、アジア経済協力会議所に出向いた蔵人は選択肢の下に一筆こうしたためた。
「Ⓑを選択します。手続きをお願い致します。2017年9月5日 蔵人金男」
これに基づき蔵人は先生から助言を聞くこととなる。それは衝撃的な内容だった。
「君はマック・アオイを知ってるんじゃないか? 彼は自分の部下でいつでも首にできる。あの2800億円の話を復活させよう。俺がイギリスの本部に行って話をつけてくる。そのためには1億3000万円が必要だ」
この突然の問い掛けに蔵人はただただ驚くばかりだった。「マック・アオイ」「2800億円」「イギリスの本部」――。誰にも打ち明けたことのない話をなぜ目の前の先生は知っているのか、思い当たる節などなかった――。