ビジネスの大きな賭けで成功へ
その後もコロワイドは郊外型レストランや焼き肉店、回転寿司店と新たな業態を獲得する買収を積極的に仕掛けていった。そうしたなか、これまでなかったような大型買収に踏み切ることとなる。焼き肉店「牛角」や食べ放題メニューの「しゃぶしゃぶ温野菜」を展開し、かつては上場もしていたレックス・ホールディングスがそれだった。この時の買収金額は137億円である。
その頃、コロワイドの売上高は1000億円ちょっとで、経常利益は25億円程度だった。年間利益の5倍を注ぎ込むこの賭けに、コロワイドは成功を収めることとなる。
1983年に社長となった蔵人はこの間、資産管理会社「サンクロード」も含め家族で約25%の株式を握る絶対権力者と化していた。2012年に社長の椅子を野尻公平に譲り、会長に回った後も何らそれは変わらなかった。岡三証券を経て中途入社した野尻は数字に裏打ちされた合理的判断が常に求められるM&A戦略の立役者ではあったものの、蔵人から見ていわば使用人に過ぎないイエスマンだ。それはこの後の一連の経緯において如実に示されることとなる。
社内報に寄せた蔵人によるパワハラもどきの文面
アジア経済協力会議所なるどこかいかがわしげな一般社団法人を訪れる4カ月前、絶対権力者たる蔵人は社内報にこんな一文を寄せていた。
「コロワイドが、レインズ(引用者注:レインズインターナショナルのことで、前出のレックス・ホールディングスの変更後の社名)を買収して5年。/未だに挨拶すら出来ない馬鹿が多すぎる。/お父さん、お母さんに躾すらされた事がないのだろう。/家庭が劣悪な条件で育ったのだろう。……私が嫌いで、嫌悪感すら感じるのだろう。/そのアホが、何故会社にいる?/辞めて転職したらいいのに。……今更、その程度に私に逆らっても始まらない。/所詮、コロワイドが買収した会社。/生殺与奪の権は、私が握っている。/さあ、今後どうする。/どう生きて行くアホ共よ」
親会社の権力を背景に買収先企業の社員に対し退社を迫るようなこのパワハラもどきの文章は外部に漏れ、世間で様々な波紋を呼んだ。ほとんどが批判的な意見だ。しかし、蔵人にとっては何処吹く風である。社内の権力基盤がそれで揺らぐことなどなかった。2017年3月期、コロワイドの売上高は2300億円を超えていたものの、赤字転落に喘いでいた。それを克服する手立てもやはり買収である。「気宇壮大」な蔵人の野望が萎ぼむことは一向になく、資金はどれだけあっても足りなかった。
